第4話 兄弟


「どういう事?」

家に帰るなり問いかけたあたしに、学校での様子を見てある程度こうなることを予想していたのか一哉は平然としていた。

「どっちが?」
「へ?」
「俺の転校のこと?悠兄の職業のこと?」
「どっちも!」
「っつっても、別に大したことないけど」

んー、と首に手を回しながら答えた。

「悠兄が俳優やってることは知らなかった?」
「あんまりテレビ見ないから」

「俺も知らないとは思わなかった。悠兄見ても反応無いなーとは思ってたけど。まあ、芸能人見て騒ぎそうなタイプでも無さそうだから、そういうの興味ないのかと思って」
「仕事何してるの、って聞いたじゃん」

その時に知らないの分かってたと思うんだけど。

「うん。だからそのうち分かるって言っただろ?」
「・・・隠しとく意味が分かんないよ」
「おもしろいかなーと思って」

あたしはおもしろくない。

「俺の転校については、早紀子さんの推薦で決定」

早紀子さん・・・ってことは、やっぱり母さんの陰謀か!

「で、転校したからマネージャーも解任」
「マネージャー・・・って悠都さんの?」

そういえば悠都さんの手伝いしてるって言ってたっけ。

「普段ついてくれてる人に別の仕事があって、丁度まだ学校決まってなかったし、臨時でバイトしてた」
「・・・なるほど」

どおりで悠都さんと一緒に出掛けたりしてるはずだ。
一人で納得していると、一哉が訊ねてきた。

「そういや、俺もひとつ聞いときたかったんだけど」
「何?」
「俺と真衣が兄妹だって事は言わない方がいいの?」
「え?」
「さっきクラスの子に聞かれたときに黙ってて欲しそうな、というか嫌そうな顔してたから」

見られてたのか。
というか、あの時一哉は周りにいた女子たちの方を見ていたはずなのにいつの間に・・・。

「嫌ってわけじゃないよ・・・まあ、どっちかというと言わないでいてくれた方がいいっていうのはほんとだけど」
「何で?」
「余計な詮索されたくないし。第一めんどくさい」

“めんどくさい”のところをきっぱりと言うと一哉が吹き出した。

「・・・何よ」
「いや、思ってることが表情に出るなーと思って。今も本当に面倒そうな顔してたし」

そう言われても、面倒なものは面倒なのだ。
今日の様子からすると一哉は絶対女子にもてる。
そんな一哉と兄妹だと分かれば、手紙を渡してくれだの、家に遊びに行かせて欲しいだの、つまり、協力してくれと頼まれるに決まってる。
どう考えてもめんどくさい。
いらん労力は使いたくない、というのが本音だった。


****


「悠都さんって俳優さんだったんですね」

その夜。
珍しく早く家に帰ってきてリビングのソファーに座っていた悠都さんにそう言った。
考えてみれば、芸能人なわけだ。
まあ、そんなのはどうでもいいけど。

「真衣ちゃん知らなかったんだよね。ちょっとショックだったけど」

悠都さんはふっと笑んでそう言った。
何だか哀愁漂って見える気がする。
そういえば、仕事って何してるんですか、とか聞いたんだった。

「いや、その、悠都さんをっていうより、芸能人全般知らないっていうか! テレビ見ないし!」
「分かってるよ。冗談」

悠都さんはそう言うと、さっきまでの儚げな表情はどこに行ったのか、すぐに笑みを浮かべた。

そうだ。この人俳優だったんだ。
このくらいの演技なんて簡単に出来るだろう。
何だかちょっと騙されたような気分になった。

心の中でちょっとやさぐれてみると、同時に悠都さんが吹き出した。
ていうか、何だかこのパターンに覚えが・・・。

「な、何ですか!?」
「本当、顔に出るなと思って」
「え?」
「さっきから表情ころころ変わるし。自覚ないでしょ」
「ないけど・・・」

笑われたせいで無意識にすねたような声で言ったあたしを見て悠都さんは笑みを浮かべた。

思いっきり子供扱いされてる気がする・・・。

あたしはそんな不満を抱きつつも、ついさっき、2時間ほど前にも同じ事を一哉に言われたのを思い出した。
しかも、笑った顔もそっくり。
さすが兄弟。

妙に感心してしまったのであった。




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