第3話 意外な事実


兄、一哉が転校して来た。
そりゃ、どこの高校に行こうと個人の自由だとは思う。
けど。
何で同じ学校なのか。何で同じクラスなのか。しかも―――

あの後すぐ授業が始まったので一哉と話す機会はなかったけど、あたしはすぐにでも一哉を問い質したい気持ちでいっぱいだった。いや、むしろ逃げ出したい。
でも、問い質すのなら一哉にではなく母さんによね。
どうせ母が仕組んだに決まってるんだから。

そこまで考えるとちらりと隣の席に座っている人物を見やる。
そこにはもちろん一哉の姿があった。

―――何で席まで隣なわけ!?

流石にこれは偶然なのかもしれないけど、あたしには全てが母さんの陰謀に思えて仕方ない。

今朝ワッフルなんて作ってやるんじゃなかった。
そんなことを思いながら、休み時間になったらとりあえず母さんに電話で文句を言ってやろうと心に決めたのだった。



休み時間になると、一哉と話そうと生徒たちが寄ってきた。
クラスの半分以上の人数が寄ってきているらしく取り囲まれる状態になっている。
ちなみに、周りにいるほとんどが女子。
まるで動物園みたいな群れっぷり。

いやあ、休み時間と同時に避難しといてよかったなぁ。

「すごい人気ね」

あたしの避難先(と言っても一哉からちょっと離れただけだけど)に一緒にいた珠が一哉を見ながらそう呟いた。

「そうだね」
「真衣はまじってこないの?」
「何であたしが」
「だって、瑞澤君見た時、随分と驚いてたみたいだったから」
「う・・・」

相変わらず鋭いというか・・・。
それとも、そんなに顔に出てたのだろうか。
でも、あの時は皆一哉の方を見ていたはずなのに何で珠はあたしの表情なんて見てるんだ。

「・・・あとで話す」

絶対に隠し事は出来ないであろう親友にそれだけ言うと、珠はにっこりと笑みを浮かべた。

一哉と話したいのはやまやまだったけど、目立つのは嫌だ。
さっきは母さんに連絡とろうかとも思ったけど、冷静に考えるとここで一哉の転校に対する文句を言うのはまずい。
誰が聞いてるか分からないし、あたしは母さんを怒鳴りつける自信がある。近くにいる生徒の注目を浴びること間違いなし。それは困る。
とりあえず、母さんへの苦情は、帰ってゆっくりすることにしよう。

そう結論付けて、何となく人だかりの方へ目をやる。

一哉は誕生日、血液型、趣味など、あたしからすればそんな事聞いてどうすんの? と思うようなことまで質問攻めにあっていた。人だかりに参加しなくても、あれだけ騒いでいれば聞こうと思わなくても勝手に耳に入ってくる。
女子達の質問にも一哉は嫌な顔一つすることなくにこやかに答えている。
慣れてるんだろうか。あたしには出来ない芸当だ。
今までアメリカに住んでいたという話になると心なしか女子からの支持率が上がったような気がする。そう言えば、そんな話を聞いたような記憶がある。・・・ていうか、女子の反応が怖いんですけど。

そして話は一哉の家族構成になった。

「一哉君って兄弟とかいるの?」
「いるよ。兄貴が一人と―――」

そこで一哉がふと視線をこっちに向けた。

「妹が一人」

・・・こっち見て言わないでよ。

まあ、それくらいで分かる人なんているわけないんだけどさ。
心の中で文句を言っていると、女の子たちがさらに突っ込む。

「妹さんっていくつ?」
「16」

何で妹の歳だけ聞くのよ。兄のを聞きなさいよ、兄のを!
ていうか、一哉もややこしくなるんだからばか正直に答えなくていいよ。

「え? ていう事は同い年?」
「じゃあ、双子?」

やっぱり突っ込まれたじゃないか。

兄妹だということを隠さなきゃいけない訳でもないんだけど、出来ればあんまり知られたくないというか・・・絶対めんどくさいことになる気がする。
ろくでもない予感だけはよく当たるんだから。

けど、一哉がその質問に答えることはなかった。

「あ!!」

別の子がいきなり声を上げたからだ。

「一哉くんって『悠』に似てるよね!!」

その子はどうやら一哉が誰かに似ているとずっと考えていたらしく、やっと思い当たったからか嬉々とした表情でそう言った。周囲からも「あー」みたいな同意の声が上がる。

「よく言われる」

本人もけろっとした様子で答える。

「だよねー。そっくりだもん」
「『悠』?」

って、誰。

「あんた、ほんとにテレビ見ないわよね」

ニュースくらいしか見ない。まあ、ニュースも見てると言うよりは、流してるだけだけど。時計代わりになるんだよね。

「真衣、知らないの?」

この会話が聞こえてたらしい子たちからも驚いたような反応をされた。

・・・知らないものは知らないんだから仕方ないじゃない。

「この子、芸能人一般全く興味ないから」

周りから微妙な視線を向けられ、微かにすねているあたしの代わりに珠が答えた。
さすが、よく分かってらっしゃる事で。

「まあ、あれだけ騒がれてるのに知らないっていうのもすごいわね」
「・・・言われてみれば名前は聞いたことあるような気がしないでもないけど」

名前と顔が一致しない。

「まあ、それでこそ真衣って気もするけど」

そう言いつつ、誰かが持っていたらしい雑誌を見せてくれた。
しかも、大量に。
顔を確認するだけなら一冊でいいというのにばさばさと音を立てて机の上に積まれた雑誌の山。

・・・ここ学校だよ? 一応、勉学の場なんだけど。

けど、あたしだってお菓子とかは持ってきているし、うちの学校は校則も厳しくないしまあいいかと思い直し、折角出してくれた雑誌を手にとってみる。

が。

「・・・・・・・・・っコレ!?」

思わずがたんっと音を立てて椅子から立ち上がり、声を上げた。

「何だ、知ってるんじゃない。名前と顔が一致してなかっただけ?」

笑いながらそう言ったクラスメートの声はあたしの耳には届いていなかった。




その雑誌に載っていたのは、もう一人の兄、悠都さんの姿だったから。




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