第6話 冷静な人



「・・・あの、突然こんな事聞くのって失礼だとは思うんですけど」
「何?」

向かいに座っている夕雅さんは人の良さそうな笑みを浮かべている。
でも、柚夏先輩に言わせるとこの笑みはつくりこまれたものらしい。

あたしと柚夏先輩の状況はほとんど一緒。
柚夏先輩の話を聞いただけだけど、でも侑城と夕雅さんて似ていると思う。何となくそう思うだけだけど、受ける印象が同じだ。
好きになる相手のタイプまで似てるのか。と思ったけど、でも柚夏先輩は侑城じゃだめだったんだから、あくまで似てるだけなんだろう。
あたしだって、確かに見惚れはするけど、侑城に対する感情とは全然違う。
違うのは分かってる。
似てるのは、あくまで似てるだけで、侑城と夕雅さんでは感じ方は異なるだろう。
が、これは聞いてみたかった。
柚夏先輩が電話をかけに行ってて席をはずしている今のうちに。

「一番最初に柚夏先輩に告白された時どう思いました?」

「また面倒な事言い出したなぁこの女。」

そう言ったのは目の前にいる夕雅さんではない。
いつの間にか席に戻ってきていた柚夏先輩だ。
・・・本人の前でそんな事聞くのってどうなんだろうと思ったからわざわざいないときに尋ねたのに。
戻ってくるの早すぎです。
焦ったあたしとは対照的に落ち着き払った夕雅さんは

「まあ、そんなところだな。」

あっさりと認めた。

「でしょうね。」

結構ひどい事を言われてると思うのだが、柚夏先輩は動じた様子もなくこれまたあっさりと流した。すごい。

・・・という事は。
侑城もあたしから告白されたらそんな風に思うんだろうか。

柚夏先輩の行動はあたしと似ていて、夕雅さんは侑城と似ている。
似てると思うのなら、あたしも頑張ればいつか振り向いてもらえるかもしれないって思えばいいのかもしれないが、そこまであたしはおめでたく出来てない。あたしと柚夏先輩が似てるのは侑城と夕雅さんほどではない。単に考え方がちょっと近いとか、そんな程度だ。
大体、あたしに柚夏先輩みたいに素直に告白が出来るのかと言われれば、答えはNoだ。
これは即答出来る。
だからと言って、このまま諦められるのかと問われればこれもNoだ。
そう出来たら楽だろうと思うが、それが出来ないから今までずっと好きでいるのだ。
諦められるものなら、とっくに諦めてる。

告白も出来ないし、諦めることも出来ない。

この状況にこっそりとため息をついたのだった。


***


結局奢ってもらってしまった。

「ため息吐くと幸せ逃げるんだって。」
「えっ!!」

さっき思いっきりため息をついたあたしは、その言葉に思わず大きく息を吸う。
・・・今更吸っても遅いか。

うう・・・笑われてる。

「ごめん。素直だな、と思って。」

そう言ってそこらの女の子が悩殺されそうな笑みを浮かべる。
柚夏先輩、心配だろうなぁ・・・
この様子じゃ、きっとかなりもてるに違いない。
ああ。でも男子校に通ってるんだっけ。じゃあ、ちょっとはマシかな。
ちなみに、柚夏先輩は喫茶店に忘れ物をしたとかで「ちょっと待ってて!」と行ってしまった。

「面倒っていうよりは・・・」

ああ。もしかしてさっきの続きですか。

「何言ってんだこいつ、とは思ったかな。俺に彼女がいても平気な顔してたし、今までの行動を見てもとてもそうは見えなかったし。散々文句は言うし、態度も可愛くないし。」

・・・それって柚夏先輩のことですよね?
何だか自分のことを言われているようで耳が痛い。
何か、続き聞くの怖いんですけど。
そう思ってつい俯いてしまう。

「でも、少なくとも迷惑だとは思わないと思うよ。」
「え?」

その言葉に思わず顔を上げる。笑った顔は、侑城にちょっと似てた。
滅多に笑わないからもう忘れつつあるけど。

「頑張って。」

優しい笑みと共にそう言われた。
そこではた、と気付く。
何か後半は自分の考えてた事というより、あたしへの励ましの言葉のような・・・
思わず顔を上げると、さっきとはまた違う笑みを浮かべていた。

・・・こういうとこ、侑城に似てるかもしれない。

でもそれより気になるのは。


すみません。一体どこから聞いてたんですか・・・?




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