第5話 そっくりな人



「えっと、ありがとうございました。」
「どういたしまして。と言っても大したことはしてないけど。」

荒事を起こさずに済んだので、あたしがお礼を言うと柚夏先輩はにっこり笑った。可愛いなぁ・・・

「ところで、今時間あるかしら?」
「へ?」
「用事ある?」
「いえ。終わったところです。」

しかも、喧嘩して強制終了させました。

「じゃあ、お茶しない?」

首を傾げてそんな事言われたら思わず頷いちゃいそうだ。
いや、別に断る理由もないからいいんだけど。
侑城の好きな人でもあるが、だからと言ってあたしは別に柚夏先輩のこと嫌いじゃないし。

「先輩こそ待ち合わせとかしてないんですか?」
「待ち合わせしてたんだけど、遅刻してくる・・・というか、今起きたって連絡があってね。」

後半、声のトーンが下がった気がする。
でも、怒ってるというよりは・・・

「待ち合わせって彼氏さんとですか?」
「え?」

柚夏先輩の顔はわずかに赤い。
何でこの人こんなに反応素直なんだろう。羨ましい。



「そう言えば、由佳ちゃんは何でバレー部入らなかったの? あんなに上手いのに。確か料理部に入ってるんだっけ?」
「バレーは趣味でしたし、それに料理部は侑城が女の子っぽい子とばっか付き合うか・・ら・・・」

そこまで言ってあたしは口を押さえた。
何を言ってんのあたし。
これじゃぁ侑城が好きだって言ってるようなもんじゃない。
しかも、侑城の好きな人に。
・・・間抜けすぎる。
馬鹿って言われても否定できないじゃないか。

「由佳ちゃん侑城君のこと好きなの?」

やはりバレたらしい。いや、まあ、あそこまで言っといてバレてないなんて思ってないけどさ。

「同じだね。」
「へ?」
「由佳ちゃんと侑城君って幼馴染でしょ? 私達もそうだから。」
「・・・彼氏さんは幼馴染なんですか?」
「そう。付き合いだしたのは最近なんだけどね。侑城君ほど優しくないし。」
「は?」

自分の耳をかなり疑った。
優しい? 侑城が?

「どこらへんがですか?」
「そんな嫌そうな顔しなくても・・・。相談にのってくれたりしたし。」
「侑城が?」

・・・・・なんて不憫な。
好きな人に恋愛相談されるなんて。
さっきあんな態度とって悪かったかな、と反省心まで沸いてくる。
でも待てよ。

「侑城なんかに話して相談になるんですか?」
「え? どうして?」
「どうしてって・・・人の話を聞いてても「ふーん」とか「あ、そう。」で終わらすような奴ですよ?! 言葉のキャッチボールなんてする気がないだろってくらい素っ気無いし・・・」

そこまで言ってふと気付いた。
先輩の前では違うのかもしれない。ていうか、絶対違うだろ。
いくら侑城でも好きな人に対してそんな態度はとらないよね。
ついいつもの調子でべらべらと侑城の悪口を言ってしまったが、柚夏先輩にこんな事を言ってしまったのはもしかしなくてもまずかったかもしれない。まあ、言ってしまったものは仕方ないけど。

ちらりと柚夏先輩の顔を見ると、くすくすと笑っていた。

「あの・・・?」
「あ、ごめんね。由佳ちゃんの前ではそうなんだなと思って。」

あたしの前というより、先輩以外にはそんな態度なんだと思います。

―――とは流石に言えない。

「どうせ今更取り繕う必要なんて一切ありませんからね。」
「私も同じ。」
「?」

先輩の言葉の意味が呑み込めない。

「こんな言い方は良くないかもしれないけど、要は外面がいいってことでしょ?」
「まあ・・・そうですね。」

いくら侑城の愛想が良くないとは言え、あたしほど邪険な扱いはしていないだろう。

「夕雅も、―――あ、夕雅ってのは彼氏の名前ね。彼も外面が果てしなく良い癖に、私に対しては冷たいっていうか邪険にされるというか。」

意外だ。
もっと王道的な“幼い頃からお互いのことを想ってて――・・”みたいなくっつき方をしたのかと思ってた。
その後もとめどなく続く彼氏さんへの悪口。
しかも、そのどれもがあたしも一度は、というかしょっちゅう侑城に対して思ってる、むしろ本人にも言ってることで。


何か、似てる。

先輩と話している内にそう思った。
いや、あたしは柚夏先輩みたいに可愛らしい外見も性格もしてないけど。
でも、状況が同じだし行動パターンも似てる気がする。しかも、上手くいっただなんて羨ましすぎる! って、しまった、本音が・・・。

でも、これであたしはますます侑城に告白できなくなったかもしれない。
侑城は相談されてただけあって柚夏先輩の状況――幼馴染の事がずっと好きだったとか、そう言う事を全部知ってる。

ちなみに、先輩の行動パターン。
片思い→全然脈なし→諦めて他の人を見ようとする→やっぱり無理→告白。らしい。

実は、あたしも先輩と同じようなことをやったことがある。あまりにもあたしの事を見てくれないから、侑城を忘れようと思って他の人と付き合ったこと。
・・・正直に言えば、あわよくばちょっとは気にかけてもらえないかと思ってたけど。まあ、結局すぐに別れちゃったんだけどさ。

同じ状況下にあるあたしが告白なんかしたら「ふざけてんの?」とかって怒られそうだ。
そう言えばあいつが付き合うのっていっつもあたしと正反対のタイプだったしな。
顔は美人だったり可愛かったり統一性がないっちゃないけど、とりあえず綺麗な子だし・・・面食いめ。
まあ、顔以上に違うのは性格だけど。何ていうか、守ってあげたくなるようなタイプ?
残念ながら、あたしはそんな繊細には出来てない。
口げんかは絶えないし。
柚夏先輩はまさに守ってあげたくなるようなタイプだと思う。
でも・・・

「先輩は・・・強いですね。」

あたしには先輩みたいに告白する勇気なんてない。

「そんな事ないよ。本気で諦めようと思った事もあったし。」

「けど、その時話を聞いてくれたのが侑城君だった。特に何か言ってくれたわけじゃないけど、話を聞いてくれただけでも随分気が楽になって。最後に頑張ってって言ってくれて嬉しかったな。」
「せんぱ・・・」

「お待たせ。」

うおっ美形!!

「本当にね。」

柚夏先輩が美形を睨みながらそう言った。
感情の切り替えが素晴らしくはやい。
さっきまでの表情はどこ行ったんだろう。

どうやら、このやたら顔のいい人が柚夏先輩の彼氏さんらしい。

柚夏先輩の話を聞きながら、柚夏先輩が本当にそんなあたしみたいな態度をとるんだろうか、と思っていたけど、この様子を見ると本当かもしれないと思う。

「じゃあ、あたし帰りますね。」

彼氏が来たんだからいたら邪魔になるだろうと思い、そう言って席を立った。
が、引き止められた。

「さっきケーキ頼んじゃったんだ。」

いつの間に。
しかも、それはもしかしなくてもあたしに食べろということですか?

「大丈夫よ。夕雅の奢りだから。」

そんな心配はしてません。
なかなか強引というか、マイペースな人だ。
人は見かけによらないって本当だね。

そんな訳で、何でか3人でお茶をすることになっていた。




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