第4話 可愛い人



侑城と二人で歩くのなんて久しぶりだ。
だって、侑城は部活してるから登下校も時間かぶらないし。
今はあたしも同じバレー部だけど、男子部の方が練習時間が早いし遅い。
助っ人が必要になるほどの女子バレー部とは違って男子は結構強いらしく、練習時間にも違ったりする。まあ、男子と同じメニューなんて嫌だけど。ただでさえ練習きついのに。

まあ、昨日の今日でまだ微妙に侑城の顔を見たくないという状況の中、何で二人で出かけているのかと言うと、それぞれの親に買い出しを頼まれたからだ。
まあ、それを密かに嬉しいと思ってるあたしも単純だとは思う。
しかし。
ちらっと侑城の顔を見た後で、周囲に目を向ける。

・・・侑城ってほんと見た目だけはいいのね。
歩いてるだけで女の子の視線が集まる集まる。
みんな、見た目に騙されてるよ・・・。
まあ、その女の子達の「隣の人彼女かな?」って言ってる声を聞いて密かに喜んでるあたしに言えたことじゃないかもしれないけど。

侑城には聞こえてるんだろうか、ともう一度隣を見ると侑城の視線は別の方に向けられていた。


何見てるんだろう・・・

そう思って視線を辿った先には可愛らしいペンダントが。
・・・・・・。

「先輩に似合いそうね。」
「何が?」
「もうすぐ、柚夏先輩の誕生日だもんね。プレゼントあげるの?」
「関係ないだろ。」

否定しないって事は、あながち外れてないって事か。
違う事は違うって否定するし。
そりゃあもう容赦なく、これ以上ないくらい馬鹿にされる。
何でこんなの好きなんだろ。でも・・・

「・・・馬鹿みたい。」
「は?」

ちょっとでも、デートみたいだとか浮かれてた。
隣を歩いていても、大した意味はない。
傍にはいられても。
それはただの幼馴染としてで。
やっぱりあたしの事は、見てくれなくて。

「帰る。」

そう言って、あたしは侑城の顔も見ずに目的地とは反対の方向へ歩き出した。

・・・どうせ、関係ないわよ。あたしだって別に聞きたくないし。
話を振ったのはあたしだけどさ。
気がついたら勝手に言ってたんだもん。

「何怒ってんだよ。それより買い出しはどうすんだよ。」

侑城は別にあたしを追ってくるわけでもなく、いたって普通に声をかけてくる。
あたしが怒ってることより買い出しの方が重要なのか。
そりゃ、あたしが怒ってるのはしょっちゅうだから今更気にするようなことはないだろうし、お母さん達の怖さも知ってるけど。

でも、今は一緒にいたくない。

「・・・侑城あとやっといて。」
「はぁ!? 何で俺が・・・」

流石にお母さん達の言いつけを無視できるほどには頭に血はのぼっていなかった。
でも、そもそもあたし達に買い出しなんて頼むのは、自分たちが行くのがめんどいとか重いとかいうのもあるんだろうけど、あわよくばあたし達をくっつけようとかいう考えのせいもあるのだ。でも、本人にその気がない以上2人一緒に買い物する意味なんてないだろうし。
後で何か言われそうだけど、それはまあいい。

あたしは侑城にそれだけ言うと、侑城にこれ以上何か言われる前にさっさと抜け出した。



****



あー。
ものっすごいブルーだ。さっきまでピンクだったんだけどなぁ・・。
しかも、こういう時に限って嫌な事って起こるのよね。

あたしは目の前にいる2人組みの男を見ながら、自分の心理状況について考えて二重のため息をついた。
まあ、いわゆるナンパってやつだ。
侑城から離れた後、すぐに帰る気にも、かと言って1人でうろうろする気にもなれなくてその辺でぼーっとしていたら声をかけられてしまった。

うざい。
張り倒して帰ろうかな。

ストレス解消くらいには役立つかもしれない、などと物騒なことを考えていると声をかけられた。

「由佳ちゃん?」

・・・何てタイムリーな人が。
振り返ると、そこには柚夏先輩の姿があった。
ていうか、ナンパされてるとこに柚夏先輩が来たら相手がますますしつこくなるんじゃ・・・

「君の連れ? 可愛いね。」
案の定、目の色が変わってる。
気持ちは分からないでもないが。
しかし、もっと気の利いた台詞は言えないんだろうか。
まあそれは今は置いといて、先輩を巻き込むわけにはいかない。

「ごめんなさい。今日は2人で出掛ける予定なの。」
「人数多い方が楽しいよ。」

やっぱり簡単にはひかないわよね。
鳩尾に一発入れてその隙に逃げ出すか。
この辺は人通りも多いし、多分簡単に撒けるだろう。

「しつこい人は嫌いです。」

頭の中で逃げる算段を立てていると、そう言った先輩の声が聞こえた。
ふと見上げると、男達の顔が引きつっている。
先輩はにっこりといつもと変わらぬ笑みを浮かべていたけど。

・・・何かあったんだろうか。
自分が思いをめぐらしている一瞬の間に起きたらしい出来事について考える。

先輩クラスまでいくとあれだけでかわせるとか?
確かに、美人さんに怒られるとショックだろうしね。
まあ、相手がヘタレだったとかもあるんだろうけど。

そんな事を考えながら、すごすごと退いて行った男達を見ていた。
 




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