第3話 一途な人
「え!? 柚夏先輩彼氏いるの!?」
それってまさか侑城だったりはしないわよね、と内心不安に思いながらも聞き返す。
「うん。隣の男子校の生徒だって。」
うちの高校の割と近くにある進学校だ。
ここの高校の生徒ってだけでポイントが高いらしい。
よく分からん考え方だけど。って今はそんなのは置いといて。
それを聞いて正直言ってあたしはほっとした。
不謹慎かもしれないけど。
だって、侑城と柚夏先輩が付き合うとかの心配はしなくていいわけだし。
だからって、あたしと侑城の仲が進展するわけでもなんでもないんだけどさ。
うちの親と侑城の親は仲がいい。
あたし達が幼馴染なんて関係にあるのはそのおかげだ。
そして、仲がいい親同士のお約束というか、あたし達が幼稚園に通ってたくらいのころ「大きくなったら結婚」みたいなことを言ったことがあった。
その時のあたしの反応。
「どうしてもって言うんなら考えてもいいよ。」
・・・あたしの答えも可愛くなかったのは認めよう。
けど、この頃からすでに匡のことが好きだったあたしとしては、意地っ張りな性格も手伝ってこう言うしかなかったのだ。
対する侑城の答え。
「―――誰も相手がいなかったら考えてやってもいい。」
これが幼稚園児のする返事か!?
いっそ嫌とか言われた方がまだましだったかもしれない。
微妙にリアルで嫌だ!!
しかも無表情で言いやがって!!
まあ、何が言いたいのかというと。
今でも多分あたしへの侑城の感情はそんなものなんだろうってこと。
相手がいなかったら考える、かもしれない程度。
考えざるを得なくなって、やっと思い出すかもしれない程度。
下手したらそれ以下かもしれない。
しかも、今の侑城に相手がいないなんてあり得ないし。
侑城が選り好みしてるだけで、その気になれば彼女なんて簡単につくれるだろう。
ましてや、今は好きな相手がいるのだから望みなんてゼロに等しいと思う。
・・・自分で言っててすっごい虚しくなってくるんだけど。
「あ。侑城・・・と、柚夏先輩。」
隣の校舎の渡り廊下に二人の姿を発見した。
噂をすればなんとやらというやつだろうか、と思いながらしばらく二人の様子をぼーっと眺めていた。
・・・・・・。
・・・自分でも唐突だと思うけど。
二人を、というか先輩と話す侑城の顔を見ているうちにさっきまでの気持ち―――ほっとした、とかそういう気持ちはどこかに飛んでいってしまった。
侑城は、それでも先輩が好きなんだ。と思ったから。
同じバレー部なわけだし、好きな人のことなんだから彼氏がいるかどうかくらい知っているはずだ。
それでも、彼氏がいても気持ちは変わらなくて。
その気持ちは嫌と言うほど分かる。
あたしがそうだから。
侑城に彼女がいようと何だろうとずっと好きだった。
諦めようとしても、他の人に目を向けようとしても結局は侑城のことが好きで、頭から離れてくれなくて。
侑城も同じなんだとしたら?
もしかしたらあたしよりもつらいかもしれない。
今までの侑城の彼女って侑城の外見しか見てなかったし、侑城も何となく付き合ってたって感じだったからまだ耐えられたけど、でも柚夏先輩は彼氏さんのことを本気で好きだと思う。
そんなに簡単に諦められるものじゃない。
さっきほっとしたのだって別に侑城がふられればいいと思ったわけじゃない。
ただ、まだあたしにもチャンスがあるんじゃないかって思って。
頑張ればなんとかなるんじゃないかって思ったから。
だけど。
柚夏先輩に彼氏がいようがいまいが、あたしの入る隙なんて全然ないのは変わらない。
あたしを見てくれない。
あたしのことをあんな優しい目で見てくれることなんてなくて。
「由佳?」
「わぁっ!?」
声をかけられ、現実に引き戻された。
自分の思考に耽りすぎていたせいで、すぐ傍にいた京ちゃんの存在をすっかり忘れていた。
「ご、ごめん。そんなに驚くと思わなくて。・・・って、ちょっとどうしたの?!」
「へ?」
きょとんとそう返したあたしに京ちゃんは窓ガラスを指差した。
そこに映っていたのはあたしの姿。
いつの間にか、涙が零れていた。

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