第2話 憧れの人



「バレー部の助っ人?」

バレー部員である友人、京ちゃんにそんな話を持ちかけられた。
タイミングがいいというか、悪いというか・・・
でも、それで噂の先輩がどんな人か分かるし。まあ、顔は見たことあるけど。
ああ。でも先輩と侑城を見るのは嫌な気も・・・でも、影から見るだけってのも嫌だし・・・!!

「打ち上げは焼肉だって。」
「やる。」

その言葉に迷わず即答した。
色気より食い気が勝った。
ふっ。あたしもまだまだね。

まあ、男子バレー部に入ってる侑城との時間も増えるかもしれないし、結果オーライということで。


***


はやまった。かも。

中学卒業してから体育の授業以外で運動なんてほとんどしていないあたしにはキツい。
準備運動からへばりそうだ。
基礎だっていうのは分かるけど、外周何周するんだよ。
ああ、でも焼肉に釣られたのはあたし・・・。
それに―――


「疲れた・・・」

あたしのぼやきに京ちゃんが答えた。

「うち弱いくせに練習はけっこうキツいからねー。人数もぎりぎりだし。前は結構いたんだけど。」
「何で減ったの? キツイから?」
「そう。しかも、バレーがやりたくて入った子より男子部目当てって子の方が圧倒的だったしねー。うちの練習に耐えられるほどの根性はなかったみたいね。」

納得。動機に関しては人の事言えないけどさ。

「あと顧問のギャップにたえられなかったりとかね。慣れたらおもしろいんだけどねえ。」

顧問の先生は美人、というか可愛いし、見た目も性格も優しい。
が、意外に鬼コーチなのだ。
あの先生だから練習も楽だと思ってたのに・・・ってところか。
まあ、気持ちは分かる。
あたしもめげそうだ。
とは言え、持ち前の根性でやめないけどね。
言い出したことは最後までやる。


「大丈夫?」
「あ。はい。」

あたしがへばっていると柚夏先輩が声をかけてきてくれた。

柚夏先輩はかなりの美少女。
そして、例の侑城の好きな人だったりする。
接してみると、意外や意外。噂以上に性格が良かった。
気さくというか親しみやすいというか。
見かけと違ってさばさばしている。
いっそ性格が悪いとかだったら楽なんだけどな・・・
嫉妬するにもしきれないというか。いや、するんだけど。
でも、柚夏先輩のことは嫌いじゃない。

「勝ったら焼肉だもんね。頑張ろうね?」

そう。これがあたしが練習を頑張る原因の一つ。

打ち上げは焼肉って言ったくせに、いつの間にか“勝ったら焼肉”になっている。
これを最初に聞いた時、京ちゃんにどういうことかと詰め寄ると、京ちゃんはさらっと「あたしは打ち上げは焼肉って言っただけだよ?」と笑顔で言われた。
つまり、勝った時に打ち上げがあるとも、負けた時には何もないとも言ってない。と。
まあ、負けた時は部室とかで勝手に騒ぐみたいだけど。

騙されたーっ! と思ったのは言うまでもない。

だって、勝たなきゃ焼肉いけないんじゃんか。
このせいもあって、余計練習に手を抜けない。
ていうか、どれだけ食い意地張ってるんだ、あたし。
でも、ここの部員みんなそんな感じだし。柚夏先輩ですら言ってるからね。

ちなみに練習を頑張るもう一つの原因。

男子バレー部の練習風景が見れること。
侑城がバレーしてるところなんて久しぶりに見たし。

黙ってる時とか、バレーしてる時はかっこいいんだけどなぁ・・・。
口開くと腹立つんだよな。

この前、体育館にあたしがいるのを見たとき、侑城の奴開口一番。

「ダイエットでもしたいのか?」

とか言いやがった!!

そう言えば、昨日の喧嘩の原因もそれだった・・・!
人が食べてる横で、「太るぞ。」と言ってきたのだ。
ぼそりと、でもしっかりと聞こえる程度には大きな声で。
好きな人に言われるほどこたえることはないのに・・・っ。
ていうか、体重もBMI数値も普通だもん!!


そう思いつつ、いつもよりも運動量や食事量を気にしてしまうのがまた悔しいのだった。
 




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