第1話 大好きな人



「侑城の馬鹿! 大っ嫌い!!」

あたし達が喧嘩した時の常套句。

口喧嘩では絶対に言い負かされるため、最後にはそう言い捨てて教室を出る。
言い逃げってやつね。
まあ、あたしが侑城に嫌いだといったところで、あいつは痛くも痒くもないだろうけど。
クラスメイト達も慣れたもので、あたしが大声を出したところで今更動揺したり騒いだりしない。注目はされてるけど、そんなの気にしてる余裕は無い。
そういえば名物だとか言われてると友達に聞いたことがある。
侑城がよく喋るのはあたしと喧嘩してる時くらいだからとか。
喧嘩と言っても、あたしが怒鳴ってるだけで侑城は至って冷静。
そう。むかつくくらい冷静に的を得たことをぐさりと、ちくちくと突いてくるのだ。
これだから頭の良い奴は・・・!!
あたしの性格にも問題はあると思うけど、これは今更直せるものではない。
侑城の捻くれきった性格が直らないのと同じだ。


あたし、柊由佳(ひいらぎ ゆか)とヤツ、狭山侑城(さやま ゆうき)の関係は世間で言うところの幼馴染。
幼馴染の腐れ縁だ。
家も隣だし学校もずっと一緒。
でも、小中学校はともかく、高校まで一緒なのは偶然じゃない。
だからと言って、運命とかいいたいわけでもなくて、単純にあたしが侑城を追っかけてきたのだ。
勿論、本人にそんな事は言わないけど。
あの受験地獄は辛かった・・・
侑城は余裕で合格圏にいたくせに、あたしに勉強を教えてくれるという親切なまねをしてくれるわけでもなく、高みの見物、というか素無視をかましてたし。

そんなあたし達の関係は高校に入っても変わらなかったけど、明らかに変わったものが二つある。
一つは、何をどう間違ったのか侑城がもてるようになったこと。
中学時代はあまりにも無愛想だったので、怖いという印象をもたれ敬遠されがちだったけど、高校生になった今では誰にでも愛想をふりまかないところがクールでいいとかいう血迷った結論が出されているらしい。
まあ、だからと言って侑城の態度が変わるかと言えばそうでもないので、見てておもしろくはないけどこれは割とどうでもいい。
もう一つの変化。これはあたしにとってかなり重要。
侑城に、好きな人が出来た―――・・・


相手は一つ年上の先輩。
これがまた綺麗で可愛くて面倒見も良い、非の打ち所がないと人気者の先輩だ。
ありえない。
今まで、そんな素振り見せなかったくせに。
まあ、あたしが知らなかっただけなのかもしれないけどさ。
いっつも無表情というか、機嫌悪そうな顔してるくせに、先輩の前だとふっと優しい笑顔を見せる。
あたしなんか侑城の笑顔を見たのはいつ以来だろうというくらいなのに。
全く笑わないわけじゃないけど、何ていうかこう、人を小馬鹿にした笑みの方が圧倒的に多いというか・・・ともかく、あたしが向けて欲しい種類の笑みではない。

二人がどのくらい仲がいいのかとかは、一緒にいるのをほとんど見ないから分からない。
くそう。こんなことならあたしもバレー部入っとけば良かった。
一応、中学まではやってたのだ。レギュラーにもなれたし。
少しは女の子らしくしようかと、友達に唆されて料理部なんて入るんじゃなかった。
だって、入ったところで出来ないものは出来ないし。ああ、でも皿洗いは上手くなったわね。
人の作ったもの食べれるのはいいんだけどなぁ。

そんなこんなで、今のところ特に打つ手は思い浮かばなかった。


 




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