ものすごい勢いでテーブルの上のご飯が減っていく。
出された料理を次々と平らげていくのは、先ほど玄関先で倒れていた少女。
この間、森でリーファが出会った少女だった。
名前をアイラというらしいが、彼女はどうやら空腹で倒れたらしい。
出されたものをきれいに平らげた少女は手を合わせて言った。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
「どういたしまして。それで、どうしてうちの前に倒れてたの?」
「あの・・・お願いがあって」
「お願い?」
「お兄ちゃんを、探してほしいんです」
「・・・この間一緒にいた吸血鬼のこと?」
リーファがそう尋ねると、アイラは頷いた。
「何があったの?」
「分からない。・・・何も話してくれなかったから」
聞いても、何を言っても、答えてくれなかった。
何も言うなと、目で言い込められた。
「何も言わずに、他の吸血鬼と一緒に行っちゃった」
「自分で?」
「そうだけど、違う」
何かを言われたわけではない。でも、確信があった。
「お兄ちゃんの意思で・・・好きで行ったんじゃない」
「どうしてそう思うの?」
「その人達のこと嫌ってるみたいだった。アイラも、嫌い」
彼と同じ吸血鬼だけど、彼には一度も抱かなかった嫌悪感を何故か感じた。
彼も迎えに来た吸血鬼への嫌悪感を隠そうともしていなかった。
それなのに一緒に行ったのは。
「・・・アイラのせいで、吸血鬼たちと一緒に行ったのかもしれない」
こんな考えは、自惚れているのかもしれない。
けど、そんな気がした。
「だから、もう一度会いたいの」
このままじゃ、一歩も前に進めないと思うから。
「・・・あなたの探してる一緒にいた吸血鬼の名前は?」
探すのなら、少しでも情報は多い方がいい。
しかし、アイラからの返事は意外なものだった。
「知らない、です」
聞かなかったわけではない。
けど、聞いても教えてくれなかった。
「好きに呼べば」と言われただけ。
少女に教える必要はないと思ったのか、他に何か理由があったのか。
彼は何にも――アイラがそばにいることすら――気にしていないように見えたから、名前すらどうでも良かったのかもしれない。
アイラにとっても、彼の名前なんて何でも良かった。
一緒にいてくれたから、それだけで良かった。
でも、今はいない。
ずっと一緒にいられるわけではないことは知っていたけど。
それでも。
今はただ、もう一度会いたかった。