ブラッド・ナイト


―――今一番見たくなかった顔かもしれない。


「何の用? 見ての通り、今取り込み中なんだけど」
「だから来たんだけど? 助けてあげようか」

あっさりとそう言ったレインを、リーファは胡散臭そうな目で見る。
それに答えるかのように、レインは「もちろん、それなりの見返りはもらうけどね?」と付け加えた。

「それに」

ひょいと体を傾け、攻撃を避けながらレインはさらに続けた。

「選択の余地も、迷ってる時間もあんまり無さそうだよ?」

確かに時間が経つほどサラの身体に負担がかかる。
それに、吸血鬼が人間の身体をのっとたという話は聞いたことがないし、何が起こるか分からない。

「どうする?」

尋ねているくせに、その表情はリーファの答えを確信しているかのようで。
レインの態度が癪に障りつつも、リーファはその言葉を口にした。

「・・・サラを、助けて」

リーファの言葉に、レインは相変わらずの笑みを浮かべたままで言葉を紡ぐ。

「血をもらう代わりに、俺は君の力になる。けど一度同意したら、契約の一方的な解消は認めないよ?」
「・・・いいわ」
「ちゃんと言質とったからね?」

にっこりと優雅な笑みを浮かべた後で、振り向いて吸血鬼に視線を向けた。

「そういうわけだからさ」

先ほどまでリーファのすぐ傍にいたレインは、一瞬でサラの姿をした吸血鬼の背後に回って言った。

「俺、あんたを倒さなくちゃいけないんだよね。まあ、大人しくその子を開放するなら見逃してやらなくもないけど? 俺も無駄な労力費やしたくないし」
「誰がっ!」

レインの動きを捉えきれず、わずかに動揺した吸血鬼は咄嗟にレインに銃をつきつけようとしたが、その手をとられて却って身動きがとれなくなる。レインは吸血鬼の目の前に手をかざし、目を細めて最後の言葉を告げる。

「そう。じゃあお別れだね」

そして、あたりに一瞬の閃光が走る。
静まった頃にはサラが倒れていた。
リーファはサラに駆け寄って無事を確かめる。
顔色は悪かったが、とりあえず異常は無さそうだ。

「何したの?」

それは、あまりにも一瞬で。

「その子の体から吸血鬼を追い出しただけ。雑魚は光に弱いしね。で、出てきた所をさくっと」

言葉通り、瞬殺だった。

確かに、人間にはあんなに強い光を出すなんて事できないけど。
閃光弾とか使えばできるかもしれないけど、それじゃ自分も見えないし。
逃げる時くらいにしか使えない。

強いと言っていたのは伊達ではないらしい。

半ば呆然としているリーファに、レインは笑みを浮かべて近づいた。
いつの間にかやたらと近くにあった彼の顔に、リーファはとっさに身を引こうとしたがその前に彼に腕をつかまれていた。

「・・・何よ」
「契約」

レインは短く言った。

「俺は約束果たしたよ? だから今度は―――」

そう言いながら、いつの間にか左手は腰にまわされている。セクハラだ。吸血鬼にそんなの通じるのかどうか知らないけど、セクハラだ。

「リーファが約束を守る番だよね? 俺、さっきので疲れたし。力は使ったら補給しないと」

にっこりと綺麗な笑みを浮かべながらそう言う吸血鬼を見て、リーファは今更ながら自分は選択を誤ったのではなかろうかと, 彼女にしては珍しく、早くも後悔したい気持ちになっていたのだった。







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