ブラッド・ナイト


「あんたは、誰?」

リーファは目の前にいるものにそう尋ねた。

「サラだけど?」
「サラじゃない。サラは、こんな事しない」

サラの姿をしているただの吸血鬼かもしれない。
吸血鬼には特殊能力を持つ者もいる。
だけど、確かにサラの気配を感じる。

「そうね。あってるけど、間違ってるわ」

あっさりとそう言って、サラに似せた無邪気な笑みを取り去り、冷たい笑みを浮かべた。

「確かに私はサラなんかじゃない。けれど、この体はサラのもの。正確に言えば、サラだったもの、になるのかしら」
「どういう事?」
「体をのっとったのよ」
「そんな事、出来るわけ―――」
「普通ならね。けど、彼女の体質ならそれが出来た」

サラの魔力は低くない。けれど、発現する力は弱かった。
それが何故だったのか今なら分かった。
彼女は霊媒体質だったのだ。
力を込めて発するハンターではなく、力を受け入れる側。
最近強くなったと彼女が言っていたのは嘘ではない。
力が強くなったからこそ、こんなことが可能になったのだろう。
サラの中にいる吸血鬼は、おそらくサラに倒された時、咄嗟に彼女に乗り移ったのだ。

「どうする? 私を倒す? でも、私が死ねばこの子も死ぬわよ」

サラの顔で、見ていて不快な笑みを浮かべる。
身体がサラのものでなければ、殴ってやるところだ。
殴った拍子に吸血鬼がサラから出て行ったりしないかという考えがちらと頭をよぎったが、そう単純なことでもないだろう。

「まあ、そんな事気にする必要もなくなるわね。――私があなたを殺すんだから」

そう言って、リーファの目の前に飛び掛ってきた。
咄嗟に避けたが、リーファが元いた場所には抉り取ったような穴が開いていた。
こんなもの、一発でも喰らえば即アウトだ。
だからと言って反撃も出来ない。
目の前にいるような相手には接近戦は不利だ。
リーファはの専門は銃だが、まさか本気で当てるわけにはいかないので牽制くらいにしかならない。

だからと言って、防戦一方ではどうにもならない。

普段なら、この程度の吸血鬼なら問題なく倒せる。
けど、それではサラがどうなるか分からない。
しかし、先手必勝、攻撃は最大の防御を地でいくリーファである。避けるだけ、というのは慣れていない。

それに吸血鬼が魔力を使う度、サラにも負担がかかる。
サラは一度にこれほど大量の魔力を発することに慣れていないはずだ。過度の負担は身を滅ぼす。
はやく何とかしないとまずい。
だけど、どうすればいいか、どうすれば吸血鬼だけを倒せるか、その方法が分からない。

そんな時、背後から声が聞こえた。

聞き慣れた、声。

「困ってるみたいだね」







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