夜、身支度を整えたリーファは街に出た。
いつものようにハントをする為ではなく、数日前から行方が分からなくなったサラを探すために。
サラはあの日――リーファと別れた日の夜、ハントに向かったはずだ。
ハントをする日は、ギルドに申請し、翌日結果を報告する決まりになっている。
けど、サラは申請を出したまま、姿を消した。それは、ハントの最中に何かあった可能性が高いということだ。
だが、サラの身に何かあったという噂も一切ない。
大概の吸血鬼はハンターを倒せば、その事実を示そうとする。
それが他のハンターへの牽制をかねた脅しなのか、ただ自慢したい馬鹿なのかは知らないけれど、吸血鬼やハンターがやられたという情報は一切入ってきていない。
勿論、何もなかったという可能性もある。サラが帰ってこないことは、吸血鬼とは関係ないかもしれない。けど、リーファはそうは思わない。サラは理由もなく人に心配をかけるようなことはしない。それに、何だか胸騒ぎがするのだ。気になるのなら、確かめればいい。それだけだ。
サラが追っていた吸血鬼のことは調べてある。だが、その消息までは掴めなかった。
吸血鬼のことは、吸血鬼に聞けばいい。
こちらの知りたいことを素直に答えるとは思えないが、ニ、三脅しをかければ大人しく吐くだろう。
吸血鬼の現れそうな場所に向かうことにした。
そこで見つかったのは予想外のもの。
複数の吸血鬼の亡骸があった。
吸血鬼は死ぬと灰になる。
けれど、灰になるまでの時間には吸血鬼の能力の高さによって差がある。
強い吸血鬼ほど、長時間そのままの姿で残っているのだ。
そして、ここに倒れている吸血鬼のほとんどは灰と化していない。
つまり、結構能力の高い吸血鬼という事になる。
一体、誰が?
その時、空気を裂く音が聞こえた。
ここから、さほど離れていない場所から。
リーファが音のした方向へと駆けていくと、誰かが倒れていた。
格好から察するに、ハンターだろう。
ギルドで見かけたことがあるような気もする。
さっと見て、出血はしているものの、命にかかわるような傷はないと判断する。
おそらく、さっきの銃声はこれだろう。
咄嗟に急所はかわしたようだ。
応急処置をしながら、リーファは違和感を覚えていた。
怪我を負っている割に、それほど争ったようには見えない。
油断していたところを、一発でやられたような傷。
ハントをしに来ているからには、注意していたはずなのに―――・・・
ふいに後ろに気配を感じ、振り向くと同時に引き金が引かれた。
「あーあ。避けられちゃった」
そんな声と共に現れたのは―――
「・・・サラ?」
ここ数日探していた者の姿を見つけた。
「そいつもまだ生きてるし。腕が鈍ったのかしら」
「サラが撃ったの?」
「だって、あたしを撃とうとしたから」
「すぐそこに倒れていた吸血鬼は?」
「あたしが倒したの」
「あれだけの数を?」
「そう」
遊んでいるかのような無邪気な笑みを浮かべて答えるサラ。
サラは、ハンターの中でも変わっていた。
吸血鬼に悪意や嫌悪感を抱いていなかったから。
そのサラが、これだけの数の吸血鬼をためらいもなく倒せるとは思えない。
それに、こんな楽しそうな表情を浮かべているはずがない。
見ているだけで、嫌悪感が湧いてくるのが何よりの証拠。
サラは銃器の扱いが下手だし、何より、サラがリーファに向かって発砲することなどあり得ない。
目の前の少女を見据えて、事実を確信する。
―――これは、サラじゃない。