ブラッド・ナイト
第二夜 力のあるもの


「吸血鬼が活動するのは夜だと思っていたけど」

何で朝からあんたと顔を合わせないといけないのか、という意味を込めて目の前にいる青年に問いかけた。
嫌そうな表情を隠す様子もない。時間もだが、場所も問題だ。
しかも、ここはヴァンパイアハンターの集うギルドのすぐ傍だ。
そんな場所に堂々と姿を現すなんて、馬鹿にされてるような気がして仕方ない。
もっとも、一番の問題は最近彼女の周りに頻繁に現れる彼の存在なのだけれど。

「朝日浴びたくらいで灰になったりしないし。吸血鬼が夜活動するのは、夜の方が魔力が高まって獲物を狩りやすいからだからね。第一、俺の目的はリーファだけなんだから朝だろうが夜だろうが関係ないしね」
「殺されたいの?」
「出来ると思う?」

その言葉にリーファはレインを睨めつけた。
出来るものならとっくにやっているだろう。
それを見て取ったのか、レインはくすりと笑みを浮かべ「またね」と言って去っていった。

出来ればもう二度と会いたくないのだが。

「朝っぱらからやるわねー」
「サラ・・・」

振り返ると、レインが去った方向に目をむけている友人がいた。

「あれが例の王子様かぁ。実物初めて見たわ」
「・・・王子?」

何を言い出すのか、という訝し気な目つきでサラを見るが、サラは気にした様子もなく続けた。

「だって吸血鬼の一族の頂点に立つ吸血鬼でしょ。見てくれもそうだけど、仕草とかも王子っぽいじゃない。品があるというか。」
「馬鹿じゃない?」

ハンターは吸血鬼のことを良く思ってないものが多いが、サラは違うらしい。
サラが何故ハンターをやっているのか不思議なくらいだ。
手を組んで夢見る乙女みたいにそんな事をいうサラをリーファは一言で切り捨て話題を変えた。

「それより、サラは大丈夫なの?」
「何が?」
「ハント。手こずってるって聞いたけど」
「あー。大丈夫。逃げ足は速いけど、そんなに強い奴じゃないし。そりゃ、リーファほどじゃないけど、あたしだってちょっとは強くなってるんだから」
「射撃をやれば、10発中8発は隣の的に当てるサラが?」
「あたしの専門は射撃じゃないからいいの!! そりゃ、体術だってリーファには敵わないかもしれないけど、ちゃんと成長してるんだから」
「・・・へえ」
「ほんとだってば!」

いつも通りのやりとり。
次に顔を合わせれば、また同じような会話が交わされるはずだった。



―――しかし、その日サラは姿を消した。







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