「何であんな平然としてられるの?!」

先輩の言動について、八つ当たり気味に奈緒ちゃんに愚痴った。

事情を全部知ってるくせについ今しがた、私が先輩にいじめられてるのをおもしろそうに見てたんだから、愚痴くらい聞いてくれても罰は当たらないはずだ。

人にあんなこと言っといて。
どうしたらいいんだろうって真剣に悩んだのに、先輩の態度はいつもと何ら変わったところはなかった。
おかしかったと言うなら、私の方だろう。

・・・何で私だけが緊張しなくちゃいけないわけ?!

「どっちかと言うとあんたが告白した方に見えたわね」
「・・・っ! 先輩の頭の中には恥じらいって言葉はないの?!」
「何、あんた先輩に恥らってほしいわけ? そんな先輩どう思う?」
「ごめんなさい」

想像つかない。
ていうか、怖いよ。そんな先輩。

先輩はいたって普通。超普通。
何事もなかったかのようにいつも通り強引で、人の話なんて聞いてやしない。
セクハラまがいの言動まで健在だ。それが普通ってのも嫌だけど。
何なんだ、一体。
もしかして、あれも悪ふざけの一種なんだろうか。


先輩の気持ちが分からない。


けど、そう思ってるのは私だけじゃないようで。

「高宮くんに告白されたって本当?」

どこかで打ち合わせでもしてきたのかと思うほど皆同じ事を聞いてくる。
しかも、鬼気迫った顔で。
まあ、女生徒が私のところに来る理由なんて先輩絡みでしか考えられないけど。
こんな風に責められること数回目。もういちいち数えてらんない。

しかし、どこからそんな情報が。

「本人からよっ!」

一様に、ヒステリックに答えが返ってきた。

中には、先輩と一緒にいるのを見たことあった人もいて。
先輩曰く彼女ではなかったらしいけれど、彼女が先輩のこと好きなのは事実。
先輩の人でなしっぷりなんて、わざわざ教えてくれなくても知ってる。

一日中、お客さんは後を絶たなかった。

今までは、私が先輩に付きまとってるんだと自分たちを納得させてたみたいだけど、先輩本人の口から聞いてしまったものだから焦ってるのかもしれない。

どいつもこいつも人の意見無視しやがって。


だけど。

私は、先輩のことをどう思ってるんだろう。

―――傍迷惑な人。

それが一番当てはまることは間違いない。

いっつも人の気持ち無視して、強引で、心身ともに振り回される。


大体、好きな人相手にあんな全力で嫌がらせをするものだろうか。
好きだからいじめたいってやつ? 小学生じゃあるまいし。

先輩が私に構うのは、珍しいからだと思ってた。
ていうか、今も思ってる。

先輩に関心を持たない人なんていっぱい・・・はいないのかもしれないけど、でも私だけってことはない。
偶々近くにいて、偶々興味をひいてしまっただけ。

お姉さま方に釘を刺されるまでもなく、自分が平凡なことなんて重々承知してる。


『高宮くんの気がしれないわ』

これは、周囲の意見。


『あなただって、すぐに飽きられるわよ』

これは、経験者の意見。


じゃあ、私の意見は・・・?




「小都」
「ぎゃあっ」

悩みの種、諸悪の根源はいきなり人の背後に沸いて出て、抱きついてきた。

「色気のない悲鳴だね」
「放っといてください!! ていうか離して!!」
「嫌」

ますます力をこめて抱きついてくる。
いつもと変わらない先輩の態度にまた混乱する。

もう、分かんない。

自分の気持ちも、先輩の気持ちも。

「私は先輩のおもちゃじゃありませんっ! 大体、いっつも人のことからかってばかりで、告白だってどうせ冗談で・・・っ」

触れないようにしてた話題。つい口にしてしまった言葉。

「信じてない?」
「え?」
「俺の言ったこと、信じない?」
「だ・・って・・・」

信じられない。

何を?

「分かった。やめる」
「え?」

私の視界に映ったのは、目を合わせようとしない、無表情な先輩。

「もうやめる」

あっさりとそう言って、踵を返した先輩は一度も振り返らずに行ってしまって。




その日から、先輩が私に構ってくることはなくなった。










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