思考回路も不可解なら、言語も不可解だ。


「何唸ってるの? 知恵熱出してまで学校来たくないわけ?」
「失礼な! 小学生じゃあるまいし!」

ていうか、考え込んでる友人を目の前にしてその台詞ってどうなの、奈緒ちゃん。

「だって先輩が訳わかんないこと言うから・・・」
「へえ。何て?」
「月が青いとかなんとか・・・」

私が先輩とのやりとりを話すと、奈緒ちゃんはふむ、と頷いて。

「随分とロマンティックな告白ね」
「は?」
「知らないの? 夏目漱石のあれよ」

あれって何。
ていうか、告白って何。何の告白?

「夏目漱石っていうと、元・千円札の人?」
「・・・あんたの認識ってそんなもんよね。先輩も使う相手を間違えてると思うわ」

・・・馬鹿にされた。

奈緒ちゃん曰く。

月が青いですねっていうのは、夏目漱石が生徒に英語を訳させた時にこう訳しなさいって言った訳。

で、学生の訳っていうのが「あなたを愛しています」
英語だとI love you

・・・・・・。

・・・えーと。
確か私は先輩に、何で構ってくるのかと尋ねて。
で、その答えが、「月がとても青いから」で。

えーと。えーと。

月が青いってのは、夏目漱石さんが訳したもので。

英語に直してみると、びこーずあいらぶゆー。
ゆーって誰だ。もしや私?

・・・。
・・・・・・?
・・・・・・・・・っ?!

や、やっぱり新手の嫌がらせですか!!?

おたおたする私を見て、奈緒ちゃんが溜め息を吐いた。

「折角の告白も本人に伝わってなきゃ問題外よね。まあ、高宮先輩の事だからわざとって気もするけど」
「何のために?!」
「そんなの自分で考えなさい?」

あう。

「考えて分かんないから・・・聞いてるのにぃ・・・」



ただでさえ、容量ちっさい脳みそなのに、ショート寸前。
あれからずっと考えてるけど、答えなんて出ない。


「ない脳みそを使ってると、熱出すぞ」


いくら自分で思っていたことでも、人に言われると腹が立つ。
きっとコウくんを睨みつけた。

「元はと言えば、コウくんが悪いんだから!!」

コウくんが来てから、先輩がおかしくなったんだから。

「何怒ってんだよ。彼氏と何かあったのか?」
「彼氏じゃないもん」

「その割には俺に敵意むき出しだったけど」
「あれは、コウくんが挑発するからでしょ」
「でもあのテのタイプなら簡単に受け流せるだろ」

そう言われてみればそうかもしれないけど。

お気に入りのおもちゃをとられるのが気に入らないだけだと思ってた。
自分から手放すわけでもないのに、離れていくのが嫌なだけだって。

キスとかはされたけど、それも先輩にとっては大した意味なんてないと思ってた。

だって、キスくらい何でもないって思ってるような人だし。

初めて会った時だって、他の人といちゃついてたし。
先輩によると言い寄られてただけらしいけど、ばっちり手を出してたんだから同罪だ。
それをたまたま資料を運ばされてた私が目撃してしまったのが先輩との出会いで。
まあ、こんなとこでいちゃつくなと思いつつも、慌てず騒がず「お邪魔しました」と去っったんだけど。それが何故か先輩の気を引いてしまったらしいという訳の分からないきっかけから、現在にまで至ってしまうわけなのだけれども。まあ、今は置いといて。


わかんない、わかんない、わかんない。


先輩のことも、自分の気持ちも、分かんない。




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