抜き足差し足忍び足。
これって確か不法侵入するときとかによく使われてるような気がする。
でも、今の私は逆。
帰りたい。
誰にも気付かれる事なく家まで帰り着きたい。

「帰るの?」
「・・・奈緒ちゃん」

驚かせないでほしい。

「あんた懲りないわね。前に姫とくっつけようとしたことで酷い目に遭ったって言ってたじゃない」
「うう・・・そうだけど」

・・・あの後、部屋に連れ込まれそうになった。

先輩、一人暮らし。
私、大ピンチ?

ごめんなさい、もうしませんとひたすらに謝りまくり、これからは「一緒に帰る」という約束をさせられて何とかその場をきりぬけたんだけども。
今までは放課後はダッシュで教室から出て、逃げおおせてたのに・・・
でも、それ以外に逃げ出せる方法なかったし。

「勝手に帰って、また先輩に拉致られても知らないから」
「だって!! 逃げなくてもやばい気がするんだもん!!」

また、安息の時間が減ってしまった。
先輩のファンの女の子からの視線も痛い。

うう。何とかしないと、そろそろ本気でやばい気がする。

「やばいって何が?」
「せ・・・先輩」

諸悪の根源がいつの間にやら背後に立っていた。
・・・逃げそびれた。
血の気の引いた私と、やたらと楽しそうな先輩と、完全に傍観を決め込んで帰ろうとしている奈緒ちゃん。

奈緒ちゃん、見捨てないで!!

そんな心の叫びも虚しく、先輩に引きずられるようにして帰途に着いた。

誰か助けてぇ・・・!!

っていう私の声が聞こえたわけではないんだろうけど―――

「コウくん?」

校門前で意外な人の姿を見た。

「何でいるの?」
「お姫様のお迎えに」
「また馬鹿なことを・・・」
「――誰?」

しまった。先輩いたんだった。
びっくりしたから忘れてた。

「コウくんは私の―――」
「彼氏です」
「コウくん!」

私の抗議の声を気にとめることもなく、さらに余計なことを言ってくれた。

「じゃ、初恋の相手? あ。ファーストキスの相手だ」
「黙れ―――っ!!」

何言い出すか!!
まだ物心もついてないような昔のことを持ち出すな!!

思いっきりコウくんを睨みつけたが、端正な顔からはちっとも気にした様子は見られない。
それどころか、にっこりと笑みを浮かべる始末だ。
何で私の周り、こんな人ばっかりなの?!
真面目に生きていきたいだけなのにぃ・・・
第一、いくら綺麗な顔してるからって、昔から慣れてる私が今更そんなので誤魔化されるわけないじゃない。
私の美形に対する免疫は母さんとコウくんで出来たんだから。
・・・そうか。今の不幸な状況はコウくんにも責任の一端があるのか。ちくしょう。
でも、コウくんは先輩ほど性格歪んでない。と思う。
多分。ていうか、そうであってほしい。

そうだ。先輩だ。

おそるおそる先輩の顔を見る。
意外にも、悪魔のような笑みは浮かべてなくて胸をなでおろす。
これ以上いびられたらたまらない。良かった。



こんなの、先輩が気にするわけないよね。




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