「王子の次は姫か。あんたもてるわね」
「姫?」
「あの子、今年の姫でしょ?」

先日廊下で会った美少女。
何か見覚えがあるなぁと思ってたんだけど、それでか。
奈緒ちゃんに言われて思いだした。

姫っていうのは、人気投票一位の人の称号。でもぴったり。
いわゆるミスコンみたいなものだ。
ちなみに、男子のもある。
姫に対して、王子。

やっぱりというか何と言うか、先輩が選ばれてるんだけども。
先輩には白馬なんて似合わないよ。あんなに黒いのに。いや、黒いからこそ似合うのか?
まあ、どうでもいいや。

あの後、流石にちょっと我に返った私は、純粋な少女に先輩を押し付けるのはいかがなものかと姫の誤解を解くついでに先輩の性格の悪さを刺激の強すぎない程度に親切丁寧に実感こもった説明をしていたんだけれど。
姫ってば強者。

「私の先生になってください」

そう言われた。

奈緒ちゃん情報によると、今年の姫こと、二ノ宮楓さんはお金持ちな上に眉目秀麗な、先輩に負けず劣らずのモテっぷりを発揮しているらしい。
そんな彼女に何を教える事があるというのか。

「私、嫌われてるみたいで・・・」

先輩め、何て贅沢な。

「何だかうまく逃げられてしまうんです」

羨ましい。

でも先生とか言われても私が先輩にしていることと言えば・・・

逃げる。
反抗する。

普通これは好かれる要因にはならないと思うんだけれども。
きっと拒絶なんてされたことない先輩には新鮮だったに違いない。

でも、協力って言っても具体的に何をすればいいのやら。

とりあえず、一緒に行動してみた。
だって、放っといても先輩寄ってくるし、そしたら姫と話すきっかけも作れるだろうし。
他の人と一緒にいる時の先輩は、猫被ってるから害ないし。
いい人な先輩なんて、見てて鳥肌たったけど。

先輩にいびられない少しだけ平和な学園生活。

・・・の、はずが。

「小都。どういうつもり?」
「な、何のことですか?」

待ち伏せされて、拉致られた。
何か、冷や汗が・・・。

「俺と彼女をくっつけようとしても無駄だよ。好みでもないし」
「何でですか、可愛いのに」
「俺、あの手のタイプ苦手なんだよ」
「・・・先輩にも苦手なものがあったんですね」

そりゃあ、普段は遭遇しないように逃げ回ってるくせに今回は敢えて会うようにしてたし(勿論姫も一緒)、ちょっと露骨なぐらい勧めてみたけども。

「どう償ってくれるわけ?」
「何をですか」
「ここ数日のストレス。小都は俺を他の子とくっつけようとしてるし、小都に触れなかったし」

前者はともかく後者は絶対おかしい!!
だいたい、先輩がストレスためこむほど繊細とは思えない。

「小都はさびしくなかった?」
「これっぽっちも!!」
「ふーん。傷つくなぁ・・・」

嘘つけぇ!!
ていうか、にじりよってくるの止めてください!!

久々の襲撃にものすごく焦っていると、かたん、と物音が。

「姫・・・!」

これは、誤解される?!
私が誤解される前に何か言おうとすると、先に先輩が口を開いた。

「丁度良かった。はっきり言っておくけど俺は君と付き合うつもりはないから」

・・・それは笑顔で言う台詞ですか?

「どれだけ顔が良かろうと何だろうと、小都に対する感情の半分もあんたに興味は湧かない」

先輩、笑顔でさらりと何て暴言を!!!
泣くんじゃなかろうか、と思ったけど姫はいたって冷静、むしろ笑顔で。

「やっと本音で話してくれましたね」

本音って!! こんな暴言スルーしていいの?! ねえ、いいの?!

「お似合いです」

そう言って、去っていった。
待って待って待って。
笑顔でそんな不吉な事言い残していかないでぇ!!!

心の中でかむばっく、と必死で呼びかけるけど、声に出してないから聞こえない。
追いかけようかと思ったんだけど、先輩に腕つかまれてるせいで出来ない。
人の心配してる場合じゃないかもしれない。

「で、小都」
「・・・はい?」
「それなりの覚悟は出来てるんだよね?」
「うぇ・・・?」

にっこり。
おそるおそる先輩を見ると、いつもの笑みを浮かべてて・・・今までにないくらい鳥肌が立った。




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