先輩に苛められだした当初から事情を全部ぶちまけてある友人、奈緒ちゃんに日曜日のことについて散々愚痴って。
これ以上遊ばれてたまるか、と先輩から逃れられる方法というものを考えてみた。

突っかかるからおもしろがられるんだって?
でも、言い返さなきゃ何されるかわかんないんだもん。実証済みだ。
沈黙は肯定とみなすよ?とかって、それはそれは楽しそうに。ねえ?

「いっそ、彼氏でも作れば?」

なるほど。
それなら、もしかしたら先輩も放っておいてくれるかもしれない。
前に、「好きな人でもいるの?」とか聞いてきたことがあったし。
が、奈緒ちゃんが現実的な問題を口にした。

「でも、相手がいないとどうにもならないわね」
「ぐっ・・・」
「そもそも、好みのタイプは? 高宮先輩クラスで駄目なんでしょ?」
「平凡な人」

平和万歳。
が、あっさり否定された。

「先輩がいる限り、無理じゃない?」
「何で?!」
「あの先輩と張り合おうなんて考える時点で平凡ではないと思うわよ」

・・・それはそうかもしれない。
いや、でも私は平凡だし。きっと、愛があればそれくらい出来る!!
まあ、私がそれほど誰かに想われるとも思ってないんだけど。

「あんた、自分が普通だと思ってたの?」

何でよ。普通じゃない。
顔、成績、運動神経。
どれをとっても平凡すぎるくらい平凡だ。

「先輩にとっては、特別なんでしょ」

特別っつーか、異質なんだろうなぁ・・・。

そんな会話をした数日後。

「ほぅ。ラブレターか」
「・・・果たし状とかじゃないよね?」
「もらったことあるの? 果たし状」
「先輩のファンから。無視したけど」
「まあ、わざわざ喧嘩しに行く必要も無いしね。で、これはどうするの?」
「どうしよう」

手紙をじっと見る。
なんてタイムリーな。
何か、裏ありそうで嫌だな。
名前に聞き覚えないし。新手の嫌がらせとかだったらどうしよう。

でも、万一ほんものだったらと思うと、すっぽかすわけにもいかない。



***



自分で言うのもなんだけど。

あの手紙、嫌がらせとか冗談の類だろうと思ってたのに。
意外や意外。ほんとに告白された。

この間奈緒ちゃんに言った好みのタイプを満たしている、将来は堅実なサラリーマンになってくれそうな、間違っても先輩みたいな人格破綻者とは正反対の人。

お友達から、と言われれば特に断る理由はない。

が。

背後から不穏な気配。
先輩と会ってから、第六感が鍛えられたと思う。
事前に察知出来るまでに究めたいものだ。
でもまだまだその域には達していなくて、私の第六感は自身を守ってはくれなかった。

気付いた頃にはぐいっと後ろに引っ張られて、先輩の腕の中にいた。
振り返るのがとっても怖い。

「せ、先輩・・・」
「何してるのかな?」

にこっと笑った顔が、睨まれるよりも数倍怖かった。

「これは俺のだから。人のものに手出しちゃ駄目だよ?」

先輩のものになった記憶なんてこれっぽっちもないんですけど!!

けど悲しいかな。
相手がそれを信じようと信じまいと、先輩にこんな風に凄まれて対抗出来るような神経は持ち合わせていなかったらしく。
奈緒ちゃんの言うとおり、普通の人は先輩に対抗できないらしい。
まあ、私だって嫌だから責める気になんてなれないんだけどさ。
これからもこんな風に邪魔されるんだろうか。

青春満喫出来なさそうだなぁ。
灰色高校生活? うわぁー、嫌。
でも、先輩に目つけられた時点で私の生活暗転してるし、今更か。・・・余計いやだ。

「小都、彼氏欲しいの?」
「まあ、欲しくなくはないですけど」

これでも、一応女の子なので。
そういうのに憧れたりはするのです。

「俺でいいじゃない」
「私にだって幸せになる権利はあります」

選ぶ権利とか言っても却下されそうだし。
・・・それを言ったらこれもそうかな。人の都合・・・じゃない、私の都合なんてお構いなしだもんね。
心のうちでやさぐれていると、先輩はさらりと恐ろしいことを口にした。

「小都ちゃんが諦めて俺のこと好きになれば、幸せになれるんじゃない?」
「なりません!!」

もし、仮に、万が一!!
そんな事になったとしたら、絶対今より追い詰められること間違いなし!!

「人生諦めが肝心だよ?」
「その言葉、そっくりそのまま、熨斗つけて返してやります!!」
「俺が簡単に諦めると思う?」

思いません。

とは思うものの、それを口に出したくはない。
でも、それは私だって同じだ。



何と言われようと、絶対諦めないんだからぁ!!!






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