今日は前に無理矢理とりつけられた口止め料と称されたお出かけの日。
待ち合わせ時間の20分前に来ているのは、楽しみにしているからでは決してない。
先輩を待たせた日には、何をされるか分からないからだ。

今日のこれから起こるであろうことと、ついでにさっき家を出た時のことを思い出して、本日十数回目のため息をついた。

私が出かける時の母の台詞。

「何なら、帰ってこなくてもいいわよ」

有り得ない。娘に対する母親の台詞とは思えない。

先輩が、いつの間にやら人の母に連絡をとっていたらしく。
しかも、母は先輩のことを気に入ってしまったらしく。
おかげで、根掘り葉掘り聞き出されたのだ。
私が先輩の本性を話したところで、全然気にした様子はなく。

「いいじゃない、美少年。目の保養になるわよ。母さんきれいな息子が欲しいわぁ」

などとのたまった。

それでも母親か!!!

おかげで、上機嫌な母に土曜日に買い物に連れ回され、今日のための服を買わされたというおまけまでついた。

・・・こんなとこにも敵が。もういやだ。





「嫌です」

先輩と合流した後、映画を観ようという話になったのだが何を観るかがまた問題。
先輩が「これは?」と示したのは今話題らしい恋愛映画。
が、恋愛ものなんて観たくない。
別に恋愛映画が嫌いなわけじゃない。でも、先輩と観るのは嫌だ。
だって、この映画カップルで観に来る人が多いんだもん。冗談じゃない。どさくさに紛れて何をされるやら。
この前のことで、先輩に対しては一瞬たりとも気を抜いてはいけないって、頭の中にインプットし直したんだから!!
嫌がらせのためには人の迷惑顧みず、何でもやるに違いない。

「仕方ないなぁ、じゃあこれでいいよ」

そう言って、あっさりと引き下がった先輩が示したのはホラー映画。

・・・・・・絶対嫌っっっ!!!

私は昔っからお化けの類が大の苦手だった。
でも、先輩はそんなの知らないはずなのに・・・。

「何か問題でも?」

にっこりと笑ってそう言う先輩が、絶対にそのことを知っているのは間違いなくて。
また苛められるネタが増えた・・・。

「・・・恋愛映画でいいです」
「こっちのが観たい」

折角の妥協もあえなく却下。
手際よくチケットと、ついでに飲み物まで購入した先輩が、私を引きずるようにして劇場に向かう。

「いーやーっ!!」
「どうして? いいじゃない、夏の風物詩」
「今は夏じゃないですし! 何でわざわざホラー観なきゃいけないんですか! 一人で行って下さいよ!!」
「一人じゃつまんないでしょ」
「映画のおもしろさは変わりませんよ」
「変わるよ。びくびくしてるの見るのがおもしろいのに」
「鑑賞する対象が間違ってます!!」

必死の抵抗も、先輩の一言であえなく撃沈。

「断れると思ってるの?」

今日のデートは、口止め料でしょ。と本日ここに来た目的を思い出さされた。いや、別に忘れてたわけでは決してないんだけれども。

劇場の中で、必死に怖さと戦っていると、先輩に手をとられた。
振り払おうという考えに至る前に、怖さが勝った。
怖い時って何でもいいから何かにしがみつきたくならない?

それに。
暗くて表情は見えなかったけど、いつもみたいにセクハラの嫌がらせって感じじゃなくて・・・手のぬくもりは、意外にもあたたかくて、優しかった。

・・・・・・いや、そもそも私がこんなの観るはめになったのも先輩のせいだし。

映画とか飲み物奢ってくれたし、その後のご飯も奢ってくれたけど。ご飯おいしかったけど。

・・・だっ、だまされないんだから!!







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