「人を呼びつけといて自分は熟睡するなんて・・・」

保健室のベッドで眠る人物を睨みながら呟いた。
具合はまったく悪そうに見えないのに、何で使用許可が下りるのか不思議だ。

先輩は外面は良いので授業中に眠ったりはしない。
それもこれも、優等生として得られる先生からの信頼を己の為に使いたいが故の行動らしいけれど、それならそれで、私に対しても優等生の仮面を被り通して欲しかった・・・。

けど、休み時間は寝てることもあるらしく、寝顔を覗き見た女子生徒がスリーピングビューティーだなどとはしゃいでいたのを聞いた事がある。

・・・寝てる理由は女の子から話しかけられないようにしてるからだなんて知らないんだろうなぁ。

まあ、眠ってる分には無害だから良いんだけど、こんな風に目覚まし役を押し付けられるのは迷惑きわまりない。


携帯を先輩の枕元に置き、数歩後ろに下がって距離をとった。
数秒後、設定通りに携帯から電子音が鳴り出す。
そりゃあもう、しつこいくらいに。アラーム音も最大だ。
自分でもうるさかったけど、とりあえず先輩を起こさないと後が怖い。

しかし、目が覚めたらしくもぞもぞと動き出した先輩はあろうことか。

「あ―――っ!!!」

手探りで私の携帯を掴んで、放り投げた。

「何するんですかーっ!!?」

私の悲鳴を無視して、眉を顰めて不満そうな声で言った。

「何でそんなので起こすの」
「私にも学習能力というものがあるんです!!」

先輩に起こせと言われたのは今回が初めてではない。
以前、先輩を普通に呼びかけて起こしたら、ベッドに引きずり込まれた。
だから今回は離れた安全なところから起こそうと試みたのだ。
危うく携帯を犠牲にするところだったけど。
今度からは100均で目覚まし時計でも買ってこよう。うん。

そんなことを考えていると、後ろに嫌な気配が。

私が振り返るよりも早く、後ろから抱きつかれた。

「学習能力・・・ねぇ」

先輩は小馬鹿にしたように呟く。

「はーなーしーてーっ!!」

もがいてみても、力で勝てるはずもなく。
かと言って、諦められるはずもなく。

そうだ。

私は力いっぱい足を踏み、肘を思いっきり後ろに振った。
それほど手ごたえが感じられなかったのできいたのかどうかは分からないけど、とりあえず腕の力が緩むくらいにはきいたみたいだ。その隙に逃げ出そうとしたけど、あえなく失敗。

「どこでこんなの覚えたの」

もうダメージは残ってないらしくいつも通りの飄々とした表情で、いつも無駄にもがいてるだけなのに、と付け足した。

「昨日見たテレビで」

ヒロインが痴漢撃退に使ってたのを、そのまま。とは言わないでおく。
テレビみたいに上手くいかないもんだなぁ・・・。
きっと、先輩の方が数段邪悪なんだ。

先輩に直接言えず、心の中でぶつぶつと不満を言っていると、先輩が奇行に及んだ。

「・・・・・・っ?!」

いきなり、耳を舐められた。

動揺した隙をつかれた私はあっという間に抱きかかえられて、ベッドに放り出された。

「地面に足ついてなきゃ、足踏めないでしょ?」

おまけに、先輩にのしかかられているせいで手足をバタつかせても大して意味はなく。
さらにおまけに、先輩は余裕の笑みなんて浮かべちゃって。

くーやーしーいーっ!!

「先輩の馬鹿ー!! 変態!! 鬼畜―――っ!!!」

せめて言葉でだけでも、と反抗したら。

先輩はにっこりと、邪気なんて無さそうな実に綺麗な笑みを浮かべて

「その言葉の意味、教えてあげようか?」

なんて、おっそろしいことを言ってのけた。

「心の底から遠慮します!! 失言でした、ごめんなさい!!!」


―――誰か助けてぇっ!!!




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