言っとくけど、私はおもちゃにされるのなんてご免なわけですよ。

自分が平凡なのは重々承知してるし、好奇の視線にさらされるのも真っ平だ。珍獣じゃないってのよ。
まあ、先輩の魅力に屈しないって辺りはそこらの女の子心理からするとまさに珍獣なのかもしれないけど。
でも、好きじゃないって言ってもどうせ誰も信じないし。
誰が作戦で興味のない振りなんてするか。
私にもうちょっと知恵があれば、たとえ鳥肌が立とうと口がひん曲がりそうになろうと、先輩の前でだけは周りの女生徒に混じって先輩にうっとりしてる振りでもしていたはずだ。

が、後悔先に立たず。

先輩の興味も、女生徒の反感もばっちり買ってしまった。



「先輩、自分のファンくらい自分で管理してくださいよ」
「無理。あんなの相手にしてたら疲れる」
「私だって嫌です!!」
「だって、小都ちゃんは未だに俺の彼女じゃないって言い張るんでしょう?」
「未だにも何も、一度だって彼女になりたいなんて思ったことはありません。ていうか、名前で呼ばないでください」

しかし、私の訴えは先輩にはちっとも届かないらしく。

「恋人が出来たっていうなら彼女達の説得も出来るかもしれないけど、違うんなら無理だね」

などという訳の分からない理由を並べ立てられた。

説得出来ないなんて絶対嘘だ。
その無駄に良い頭と舌先三寸、何より顔でファンなんて簡単に言いくるめられるに違いない。

要するに、自分の身は自分で守れってことか。
そうだ。先輩なんて当てにするほうが間違ってるのよ。
そう結論付けると、先輩から数歩退いて距離をとった。


「半径3メートル以内に近付かないでください」
「この間より増えたね」
「そうされる覚えがないとは言わせませんよ?」
「まあ、いいけど」

先輩は意外にもあっさりと引き下がり、何だか拍子抜けする。

「それだけ離れると大声で話さないと聞こえないよね?」
「むしろ話しかけないでほしいんですが」

ぼそりと呟いた言葉が聞こえてしまったらしく、先輩はさらに笑みを深めて言った。

「どんな話の内容も周りに筒抜けだよね? 例えばキスしたこととか――」
「わ―――っ!!」

そんな事大きな声で言うなぁ!!
誰かに聞こえたら、間違いなく先輩のファンに絞められるっ!!
慌てて駆け寄った私に、先輩が一言。

「近付かないんじゃなかった?」

くぅっ!!
そうするように仕向けといて何を言うか!!

「次の日曜12時」
「はい?」
「駅前ね」
「何の話ですか?」

おそるおそる尋ねると、先輩はにっこりと・・・いや、にやりと笑って言った。

「口止め料」

それって、普通は加害者が被害者に払うもんじゃないんですか。
何でキスを奪われた上に、そんな事まで・・・!!

「嫌ならいいけど?」

ここで断れば先輩がどういう暴挙に出るかなんていうのは、嫌というほど分かっていて。

「行きますよ。行かせて頂きます。行けばいいんでしょう!!」

先輩を睨みながら、半ば自棄になって叫んだ。



―――誰か、先輩から逃げられる方法を教えてください。




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