


まいは好奇心が強い。
おまけに興奮しやすい。
その上、かいじゅうである。
まいに破壊されてきた品々は数知れず。
真夜中に破壊された網戸、床一面の木屑と化したスノコ、ウンチに混じって出てきた迷子札、端っこがギザギザに
加工された特注首輪・・・etc
一番大変なのは雨の日に散歩に出て、濡れた体を拭いてやる時だ。
ゴシゴシと動くタオルに興奮し、食いついてくる。一度、くわえたら絶対に放さない。くわえて振り回し、前足で押さえて、
噛み裂く。あっと言う間にタオルが細かい布の切れ端へと姿を変えていく。なんとか破片を取り返すと、興奮しきった
まいは狂ったように暴れて飛びかかってくる。
だからと言って、濡れた体のまま放っておくわけにもいかない。シャンプーの後だって、拭いてやらなきゃならない。
ブラッシングも耳掃除もしてやりたい。
色々と対策を講じてみた。おやつをやりながら、タオルで体を拭くのはいい方法かと思ったが、片手でおやつを握りな
がら、片手で作業するのは意外に困難。ジャムのビンを舐めさせててももやはり作業しにくい。
そんなある日、外国の水難救助犬の訓練の様子を放映したテレビ番組の中で訓練士が言っていた。
「犬との信頼関係があれば、耳掃除くらいおとなしくさせるはずだ」
・・・信頼関係。
いや、それ以前にまいはタオルやブラシで遊ぶことを悪い事だと思ってない。そんな事をしちゃ駄目だっていう私の意思
が全然伝わってない。
うーむ。
まいに説得を試みた。
タオルを小さく丸めて握り、まいの前にしゃがみこむ。
まいが激しく尻尾を振り、口を開けてタオルに食いつこうとする。そこで、すかさず空いている片手をいっぱいに広げて、
まいの口の前に突きつけて、静かに言ってみる。
「ノー!」
予想外の障害にまいが一瞬、戸惑った。口が閉じる。
すかさず「グッド!お利口さんだね!」と褒めてやる。
まいは戸惑った表情のままじっとしている。
私も手を広げたまま静かに固まって待った。
お互いにフリーズしていたのは1分間くらいだっただろうか。
ついにまいがお尻を床につけて、座った。私は静かに広げていた手を下ろした。「お利口さんだねー」と静かに言いながら
・・・その瞬間、
まいが弾かれたように立ち上がり、丸めたタオルにダッシュ!
でも、私の方もこの動きは予期していた。
電光石火の早業で広げた手を突きつけて「ノー!」
またしても手の平に行く手を阻まれ、まいが立ち往生する。すぐに褒めてやる。まいが座るのを待って、手を下ろす。
「やったー!」とばかりにまた、まいが突っ込んでくる・・・
何回繰り返しただろうか。
私はついにまいの体を拭くことに成功した。少しづつタオルをまいに近づけ、そのたびに突っ込んでくるまいに手の平を突き
つけ、まいが立ち往生したら、すぐに褒める。タオルが体に触れた時、それをゴシゴシと動かして拭いた時、毎回毎回、忍耐
と反射神経の勝負だ。
ようやくまいは諦め、納得したようだった。
広げた手の平で拒絶し、一瞬でも動きを止めたら、褒めてやり、落ち着いて座るまで待つ・・・この作戦は使える!調子に
乗って、ブラシや耳掃除にも試してみた。
全てOK。
信頼関係が築けたかどうかまでは分からない。
でも、ローションを染みこませたコットンでお耳をクチュクチュする間、まいはじっと座っている。足の裏のパッド(肉球)の間か
らはみ出した毛を切ってやる時やささくれた爪にヤスリをかけてやる時は四本足を投げ出してゴロンと寝ころんでいてくれる。
少なくとも私の説得には応じてくれたようだ。
よーし・・・だいぶ普通の犬らしくなってきた、ような気がする。
9 説得・・・納得?