最後のワクチンも終わった。ちなみに獣医さんでは特に事件を
起こすこともなかった。
ブンブン振り回すしっぽで棚の薬瓶を一掃し、床に叩き落とした
こととか、獣医さんの顔をなめまくったこととか、待合室の電気
蚊取り器を転がし、くわえて走ったこととか、どこの子犬でもやり
そうな事をちょっとやっただけだ。
初めての散歩は雨上がりだった。
興奮したまいは夢中でリードに噛みついてきたが、道路にたくさん
出来ている水たまりを見た途端にリードを忘れ、狂喜した。
ダッシュし、水たまりに飛び込み、水に噛みつき、水を掘る。
と、次の瞬間には別の水たまりへとダッシュ。
目を輝かせ、全身を使って跳ね回っている。
ずーっとお店のケージの中で生きてきたまいにとって、水たまりは
初めて目にする不思議なもの。
草も土も石も・・・すべて!
子犬ってのはこんなにかわいいもんなんだ・・・
まいは散歩がとっても気に入ったらしい。好奇心が強いようで、
物怖じすることもなく、何でも調べに行く。
リードが散歩を意味することもすぐに理解した。
そして、恐ろしい日々が始まったのだ。
散歩に行くことが分かるとまいは異常に興奮するようになった。
まず、首輪にリードをつけようとすると私の手に狂ったように
噛みついてくる。
甘噛みとかじゃれてるとか言えるレベルではない。尖った乳歯で
みるみる間に手が傷だらけになる。
何とかリードをつけると今度はリードを持っている私に飛びかかってくる。
飛びかかるだけではない。
滅茶苦茶に噛みついてくる。振り払ったり、押さえようとしても、余計に
興奮し、手のつけようがない。
無視して、歩こうとしても、足に夢中で噛みついてきて、歩けない。
取りあえず、落ち着かせるためにどこかへつなごうとしても、わずか
数mの距離が歩けないのだ。
それくらい、まいの勢いは凄まじかった。あっと言う間に何着もの服や
ズボンを噛み裂かれた。
無数の傷がついた腕が赤く腫れた。こんな子犬、見たことも聞いたこともない。
散歩は恐怖の時間と化した。
2 さぁ、散歩だ!