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朝から本格的な雨が降り続いていた日だった。
私は久しぶりに仕事を早く終え、弾む足取りで帰宅した。雨ももうやみ始めている。
玄関まで来て、いつも通り、まいがお留守番しているベランダの出入り口に目をやった。
・・・扉が開いてる!バリケードも倒れている!
血の気が引いた。ベランダへ走り込んだが、まいの姿はない。脱走した?!
表に走り出て、叫ぶ。「まい!まーいっ!」
静寂。・・・足がガクガク震えた。どこへ行っちゃったんだろう?!
と、その時「ワン!」と力強い声。
続いて、「あ、帰ってきはった!よかった!」とお隣の人の声。
隣りの家と我が家の間の狭い通路を走ってくる白いワンコ。
全身ぐっしょり、足やお腹は泥んこ、おまけにひどく興奮していている。この通路にはネコが入らないよう柵がしてあるので、まいはそこで
行き止まり。私の顔を見て、柵ごしに飛びはねながら、ワンワン吠えまくる。
とにかく急いでリードをまいにつけ、ベランダへ放り込んだ。

扉を開けたのは隣りの奥さん。外を走り回っているまいに気づき、中へ入れようと扉を開けたのだと言う。
つまり、まいは1mの扉を助走なしで飛び越えたのだ。
「それが全然入らなくて、名前呼んだら尻尾振るんだけど、近づくと飛びついてくるから、怖くなって、電話で父を呼んだんですよ。父はまい
ちゃんの事をよく知ってるし・・・」
お隣りの奥さんは犬好きだが、あの暴れ方では近づけないだろう。お父さんもおやつで釣ろうとしたが、うまくいかなかったようだ。
興奮したまいはよその人が手をつけられるシロモノではない。
とにかく、そのお隣りさん宅に被害はなく、「Tさんのお庭を走り回ってましたよ」との目撃情報に基づいて訪れたTさん宅にも被害はなかった。
まいが車に轢かれることもなくよかった・・・とほっとしながら、家へ戻った私は何気なく反対側のお隣りであるAさん宅の玄関に目をやった。

私はあるはずのない光景をそこに見た。

真っ白い玄関ポーチが全面的にグラウンドになっている???

私が推測するにまいが玄関ポーチをグラウンドに変えた手順はこうだ。
玄関ポーチの隅に積んであった園芸用の土(ホームセンター等で売っている20リットル入りのもの)2袋を見つけたまいはビニール袋をまず
ズタズタに破り、中身の土をせっせと掘り出して、まんべんなく辺りに散らかしていった。
土はたっぷりあり、恐らく、まいは高く上げた尻尾を振りながら、大喜びでこの作業に従事した事であろう。
破れた袋をくわえて、激しく振り回した後、前足で押さえつけ、さらに細切れにしていく事も忘れない。
次にまいは側にあったバケツにも気づいた。これも丹念に細切れにする。くわえて振り回し、噛みちぎる手順はさっきの袋と同様だが、こっちは
さらに堅くてやり甲斐があった事だろう。数時間前はバケツであったはずの無数のプラスチック片に残る歯形がまいの興奮を物語っている。
さらにまいの目標は洗車用スポンジに移った。これは以前から彼女が非常に高い関心を抱いていた物体だが、いつも私に阻止されて、くわえる事
も許されなかった。この禁断のスポンジをついに口にしたまいはどれほど嬉しかった事だろう?喜びのあまりか、まいはそのスポンジをAさん宅から
Kさん宅のガレージまで持って走り、そこで細かくちぎるという念の入った犯行に及んだ。
グラウンド状の犯行現場には他に元はホウキであったかと思われる竹とイグサの残骸も発見された。

Aさん宅はご夫婦とも働いていて、昼間はお留守である。
私は一面の土をスコップですくい、水を流し、土の下から発掘された玄関マット(これがなんとラブラドールの絵なのだ)を洗った。
その作業をまいはクンクン鳴きながら、柵ごしにじっと見ている。
柵にはさらに棒を足して、高さ1.6mくらいになるようにした。今度、これを助走なしで跳べたら、まいは西武ドームで行われるスーパードッグ・カーニ
バルのハイ・ジャンプで優勝出来るかもしれない。

現在、まいは2歳8ヶ月。
3歳になれば、彼女は本当に落ち着くのか?
それとも「ラブは3歳になれば落ち着く」はかいじゅうには適用されないのか?
17 かいじゅう、暴れる