


まいが再び脱そうした。
前回の脱走事件の後、結局、扉を二重にしたのだが、今日、私が家へ帰ってくると扉を押さえているコンテナが押しやられ、
内側の扉が開いていた。外側の扉はそのままだったので、またしてもジャンプしたらしい。
ハウス内に入れてあった毛布が全て引きずり出され、エアコンの室外機のダクトカバーがズタズタに噛み裂かれ、辺り一面
に散らばっている。相当暴れたらしい。
また、ウン○をしたくなったんだろうか・・・
私は自転車に飛び乗った。そんなに遠くまで行く事はないだろうと思いつつ、いつも一緒に行く公園や近所一帯を探し回った。
強い風で横なぐりの雪の中、寒さは全く感じなかった。まいがいなくなってしまう・・・その恐怖が胸にわき上がってくる一方で、
もう一方では、まさかそんな事はあり得ない、信じられないという気持ちがあった。
次々に頭をよぎるのは、今朝、まいを抱っこしてマッサージしてやった時の柔らかい毛の感触、温かい体温、満足そうに閉じら
れた目の表情。まさかもう二度とあんな風に抱っこしてやれないなんて事あり得ない・・・絶対に。必ず帰ってくるはず。
だが、まいはどこにもいなかった。近所一帯も静まりかえっている。まさか電車にはねられたのではと線路沿いも走ってみたが、
それらしい姿はどこにもない。
こんな事をしてる間にもしかしたら、家へ帰ってるかも・・・私は自転車を猛スピードで走らせ、家へと向かった。
我が家の通りへと曲がった。その途端、目に入ったのは。
道路を呑気な足取りでトコトコと小走りに歩く白いワンコの姿。
・・・まい。
「まいっ!」
私の声にまいはくるりと振り向いた。その顔が輝いた。とびっきりの笑顔!
「まい!コイ!」
私の声にまいが走ってこようとした時、お隣りのご主人と男の子が道路へと出てきた。
「あれ?まいちゃん!」
その声にまいはさっと向きを変え、お隣のご主人のところへ・・・おいっ!!
なんとなく元気がないような気がしたが、見たところまいの体に異常はなさそうだったので、とりあえずシャンプーをすることにした。
どこで何をやってきたか分かったものではない。前足が泥んこになっているところを見るとどっかで穴掘りをしてきたようだ。
無事にシャンプーが終わり、ドライヤーもかけ終わった時だった。
突然、まいがウッ・・・ウッ・・・と言い出した。何か吐くぞ・・・!私は咄嗟にバスタオルを広げた。
グエッ・・・・ドバッ。
真っ白い米の山。凄まじい悪臭・・・約2合の生米。
それからさらに4回。一回当たり2〜3合の悪臭プンプンたる米をまいは吐いた。一体、どこでこんなに大量の生米を食べてきたのか?
5回目の嘔吐の後、まいは元気になったが次に始まったのは凄まじい下痢。
とりあえず夕食を抜いて様子を見てみることにした。ご飯の時間を何よりも楽しみにしているまいの顔を見ていると私の方が辛くなるが、
これほどひどい下痢をしている時に食べさせるわけにはいかない。
寝る前にもまた下痢。心配しつつハウスへ。
夜中の2時。私は夢の中で「ワン!」と犬の声を聞いた。
しばらくして、今度は「ワンワン!」と2声。ハッと目が覚めた。まいが呼んでる!
普段、夜中に吠えることなど全くないまい。意味する事は一つ。
「分かった!すぐ行く、ちょっと待ってて!」
私はパジャマの上に上着を羽織り、ズボンを履き替えて、まいを外へ連れ出した。
まいは家を出るなり、ぐるぐると走り回り、しゃがみこんだ。またひどい下痢。
まだお腹が痛いらしく私が始末をしている間も走り回っている。
私はまいと真夜中の凍てつく空の下、住宅街を歩き回った。まいは再び下痢便をし、さらにおしっこをして、ようやく落ち着いたようだった。
やれやれと家へ戻り、まいをハウスへ。まいはおとなしく丸くなった。
それから朝までまいは眠り続けたが、朝一番に連れ出すとやっぱり下痢。
仕事になど行っている場合ではない。だが、今日は年内最後の出勤日。休むわけにもいかない。絶対に脱走出来ないようにまいをつなぎ、
出勤。こんな日に限って、忙しい。
急いで帰るとまいはおとなしく寝ていた。粗相の後もなく、暴れた様子もない。トイレに連れ出してやるとほんの少しだけ軟便をしたが、やや
固まりかけている。今朝のご飯も抜いたので、出すモノもなくなってきたのだろう。その夜のご飯はいつもの半分の量を2回に分けてやったが、
夜中に悲痛な呼び声を出すこともなかった。
まいの犯行現場は斜め向かいのTさん宅である事が判明した。
被害にあったのは庭の小屋に置いてあった10kgの米2袋ともち米1袋、それに家庭菜園。米20kg余り!聞いた時は目が点になった。
もちろん、全部食べた訳ではないが、それでも・・・
こんなに大量の生米を食べたワンコの話など前代未聞。
おいしかったんだろうか?
18 かいじゅう、米を食らう