


1歳半になったまいは依然としてかいじゅうのままである。
スワレ、フセ、マテ、コイは一応出来るようになった。散歩の時はちゃんと左横につくようにもなった。
・・・誰もいなければ、だ。
誰かが来るとまいは狂喜する。ワンコも人も大好き。相手が犬嫌いであろうと関係ない。
そして、その喜びの表現がとんでもなく「かいじゅう」なのである。
とにかく飛びつく。飛びつかせまいと私がリードを短く持って抑えるとさらに興奮が高まって吠える。
まいは一見、おとなしそうに見える。盲導犬のイメージもさることながら、距離が遠い間はきちんと私の脚側で
スワレをして動かないのだから、本当にお利口な犬に見える。
もちろん、私は近寄ってくる人に警告する。
「いえ、全然おとなしくないんです。ものすごく暴れん坊で、飛びつきます」
「いいのよー。私、犬大好きだからぁ」
ニコニコしながら、近寄ってくる人をまいはスワレのまま尻尾を振りながら迎える。
その人がまいの射程距離に入る・・・絶対に外さない距離までギリギリ引きつけておいて・・・
一気にまいは飛びかかる。後の状況はお約束通り。
「うわーっ!」
普通の人が想像する「飛びつく犬」とまいの飛びつきは全然レベルが違う。ポンとふともも辺りに前足をかけて
尻尾を振るなんて、そんな生やさしいものではない。普通の大型犬とも違う。ゆったりとした動作でドーンと飛び
つくのではなく、電光石火のフットワークで跳ね回る。
体重24kg、筋肉隆々の興奮した子犬を想像してもらえれば一番適切か。
この興奮状態に陥るともう私が何を言っても無駄。ペロンとした垂れ耳をめくり上げて怒鳴っても、聞いちゃいない。
これはいかん。
いつ、どんな状況でも主人の命令に従う犬でなければならないというのに、まいの場合、最もお利口さんにして欲しい
状況で一番暴れる。
だが、近所の人や通りすがりの他人にかいじゅうのしつけに協力してもらうなんて無理。
犬のしつけや訓練にくわしい友人もいない。
やっぱりどこかしつけ教室へ行って、他の人や犬がいっぱいいる中で言うことを聞かせられるよう訓練しなきゃ・・・
そんなこんなで選んだのが、現在も通っている京都ドッグ・トレーニング・センター。
見学させてもらった時、休憩時間のたびにワンコ達が楽しそうに遊んでいて、レッスンの終わり近くにやってたアジリ
ティーの練習も楽しそうで、一緒に見ていたまいがすっごく参加したそうな顔をしたからだ。
首輪はどうすればいいですか?と質問すると「今、使ってる首輪でいいですよ」と言ってもらえて、ほっとした(ほっとし
た理由は事件簿7「しつけ教室」で)。
確かにレッスンを受けているワンコ達はそれぞれ色々な首輪をつけている。
午前中のクラスを見学した後、早速その日の午後のクラスに参加することにした。
12 体はかいじゅう、中身は子犬