


引き続き、串本町へお出かけの話。
その夜、泊まる予定だった家に急遽泊まれないことになり、宿泊先を探すことになった。
なぜ、いつも犬連れのお泊まり旅行がこうも行き当たりばったりになってしまうのだろう?
幸い、電話帳で探した民宿のおばさんが「犬がいてもいいよ。私も犬好きだから、部屋にいれてあげなよ」と言ってくれた。
一安心・・・したのも束の間、実際にそこへ行くと経営しているのは息子である男性で、動物は泊められないと言う。
が、庭の玄関の前にクレートを置くのならいいということなので、泊まることにした。
「新聞屋さんが驚くから、絶対に出て来ないように扉を閉めといてください。吠えるのは構わないから」と言われ、「滅多に
吠えない犬です」と答えたのだが・・・
お風呂にはいっている間も部屋に戻ってからも、まいはずーっと吠えていた。家では本当に滅多に吠えないので、どうして
いいのか分からない。しばらく無視していたが、まだ吠えている。そばへ行って、声をかけても怒っても、もちろん吠える。
吠えてもいいと言われたとはいえ、まさか夜中ずっと吠えさせておくわけにもいかず、まいもかわいそうだ。きっと知らない場所
で置き去りにされたと思っているのだろう。いつもハウスとして使っている馴染みのクレートの中に入れておけば大丈夫だと思
ったのが間違っていたらしい。
気になって眠れない。
私はまいを外へ連れ出した。嬉しそうなまいと周辺を歩く。しばらく歩いて、クレートへ戻してみたが、また吠え始めた。
こりゃ、駄目だ。
再びまいを出した。潮岬の灯台のそば、展望台の駐車場をウロウロする。目の前は広い草原で、さらにその先は断崖絶壁となり
海になるのだが、当然真っ暗で何も見えない。
駐車場以外に行く場所もなく、疲れた私は展望台の階段に腰を下ろした。まいはまだウロウロしようとしているが、もう付き合いきれない。
リードを腕に通し、座って眠ることにした。まいがリードを引っ張るが、無視。顔を舐めにきても無視。もう私は疲れた。
おとなしくしてくれないまいにちょっと腹も立っていた。
わずかにウトウトしたらしい。ふとリードを引っ張られる感覚がないことに気づいた。ドキリとして、腕を見るとリードは通ったままだ。
首輪が抜けたのか?そう思って、顔を上げるとまいはちゃんと足下にいた。
四つ足を投げ出し横たわって、ぐっすり眠っている。
安堵の息をつき、私はまいを眺めた。安らかな寝顔。
さっき、ちょっと腹をたてたのがかわいそうになった。まいもすごく疲れてるのだ。知らない場所で一人ぼっちにされて、休めたはずもない。
だが、今はぐっすりと眠っていた。口がムニュムニュ動き、微かに足がピクピクする。
きっと私が眠ったもんだから、まいも安心して、一緒に眠っちゃったんだろう。さっきまでは私がウロウロするから、一緒になって、
興奮してウロウロしてたに違いない。
まいを落ち着かせるためには私がまず落ち着いてやらないと駄目なんだ・・・
そのまま私はまいと一緒に夜明かしをした。夏でよかった。冬だったら、私は凍死してるよ、きっと。まいは平気だろうけど。
海の方から空がだんだん明るくなり、辺りが見えるようになってきた。
まだ誰もいない目の前の草原にロングリードをつけてやったまいと突入!
しばらく眠ったせいか、まいは元気いっぱい!広い草原に興奮し、ボールも投げていないのに全力疾走で縦横無尽に走りまくっている。
周囲に誰もいないので、ロングリードから手を放すと凄まじい勢いで走っていく。
あんまり向こうまで行くと車道があるので、あわてて呼び戻す。「まいーっ!」
興奮して帰ってこないかと思いきや、意外にもまいはこっちを振り向き、方向転換した。全速力で私に向かって走ってくる。すごいスピード。
まっ、まてっ!そのスピードで止まれるのかっ!?おいおいおいおい・・・うわーっ!!
まいは全速力のまま私に突っ込んできた。よける間もなく私は吹っ飛んだ。大袈裟に言ってるのではない。本当に両足が地面から飛び、
背中から草に叩きつけられた。
まいはそのまま私の後方へと走り去っていった。
10数mも行き過ぎてから、ようやく私を振り返り、嬉しそうな笑顔で尻尾を振りながら戻ってきた。
・・・ちゃんと前を見て、走ろうね?
11 まいとの一夜