* イングリッド・ヘブラー *

 
     
   1926年6月20日、ウィーンで、ポーランド人の両親のもとに生まれ、幼少期から母にピアノを習う。6歳から音楽専門教育を受け、モーツァルテウムに入学。N.マガロフ、M.ロン、S.シュルツに師事。1952年にジュネーヴ国際コンクールで二位に入賞。1954年にミュンヘンラジオ・コンクールで優勝。1969年、モーツァルテウムで教鞭をとるとともに、室内楽奏者としても活躍。グリュミオ、シェリングとモーツアルトのヴァイオリンソナタ等を録音。  
     
   ベートーヴェンのソナタがケンプとバックハウスでステレオタイプに騒がれたパターンで、リリー・クラウスとヘブラーが比較されたのもはるか昔の話となってしまった。あらためてヘブラーを聴いていると、ショパンとモーツァルトが両立しない理由が見えたような気がした。モーツアルトはピアノを打楽器の枠に留めているようで、ひとつひとつの単位旋律ごとに終結させて、縦割り構造の集合体のような音楽を作っているように思える。ルバートは横につながった構造の中で意義をもってくるものだから、縦割りユニットの整然とした構造ではそぐわないものになる。このあたりがショパンとモーツアルトで180度違ってくるところのようで、ヘブラーの奏法は高音域に積極性を持たせて一音一音を磨き上げたパーツを描くため、モーツアルトにはぴったりはまるけれどショパンでは堅苦しくなっているように感じる。シューベルトのソナタでは、留まる所を知らず流れあふれ出る音楽に、彼女の構造的奏法が、メリハリをつけて魅力あるものにしている。また彼女の音色設定が左手の役割分担を伴奏として明白化しているようで、バッハでは変幻自在な世界を狭めているようにも聴こえる。彼女のスカルラッティを聴いてみたい。  
     
 

 モーツァルト:ピアノ/ソナタ全集(4) COCO−85086

 Great Pianist 456 823−2

 Mozart:The Great Violin Sonatas(1) 462 185−2