since 04'03/10   平成の隠居

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体験談

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AM放送を綺麗に受信する!
リモートコントロール同調型アンテナ

 真空管式の自動車ラジオを修復し、しばらく我が庵でモニターしていた。しかし、とても聴ける状態ではない。ノイズが滅茶苦茶に紛れ込むためである。最初は受信機本体の問題かと思い自動車に積み込み聴いてみた。結構良い音で綺麗に聞こえる。いろいろテストした結果、「アンテナに雑音が混入しているため」との結論に達した。

 自動車用受信機は、1m前後のポールアンテナで十分聴けるように設計されている。そのぶん感度が高いのだが、いくら感度が高くてもアンテナに紛れ込む雑音はどうしようも無い。アンテナの設置位置を変えれば多少良くはなるが、かなり強い電波でも雑音の混入が耳に付き満足できない。半分諦めかけたものの、どうもシーラカンスの冷え切った筈の血が騒ぎ出した。 
 自動車ラジオの雑音問題は、電源・スピーカ・etcの配線からセット内部に入り込む雑音を防止する事と、雑音発生源の、レベル低減・輻射抑制が主である。この領域では経験もあるのだがとてもそれが生かせる状況ではない。止む無く無手勝流と承知の上の挑戦とあいなった。

雑音検出に使ったラジオ

 問題解決の手がかりはまず現状把握が第一である。把握するにしても測定設備は何もない。やむなくポータブルラジオを使う事にした。方向を変え、周波数を変えながら雑音の少ない場所の宝探しだ。室内および家の周辺数mの範囲では探し当てられなかった。かろうじて道路に面した駐車スペースの1部に雑音の少ない場所を発見出来た。しかし、2m前後のスペースに過ぎず長いアンテナは張れない。且つ20m以上離れた場所のため実用的な解決にはなり得ないのだ。

 雑音源も多種多様である事が観測できた。IHの電気釜からさえ雑音を発している。しかし、それを追求するのは余り意味が無いと気付いた。 室内・室外に配線されている電灯線から強烈な雑音が輻射されているのだ。更に、放送波そのものも電灯線を伝って到達し、「途中に接続されているいろんな機器で変調を受け再輻射されている」としか考えられない現象まで現れている。まさにお手上げの状態になって来た。しかしシーラカンスは諦めず模索を続けた。

 「理想は高く」はもっともなれど、人間なるもの時には妥協も必要である。放送の受信アンテナは無指向性が理想だ。 しかし、今回はその考えは捨てる事にした。おもちゃみたいなポータブルラジオでさえ場所と方向を上手に選べば綺麗に受信できる。この事実を生かすことにしたのだ。
 フェライトコアーのバーアンテナを使えば指向性が生じる。それを使って雑音混入を抑え、同調させる事で感度を稼ぐ。雑音の渦巻く環境下で綺麗なAM放送の受信には他に方法ないと決め付け、次のステップに入った。

基本回路

 右に示したのが実験を試みた基本回路である。フェライトアンテナは100mm(L)×10mm(Φ) のラジカセから取り外した物をバリコンともども使った。
 自動車用ラジオは、アンテナフィーダーの静電容量が同調回路の一部を形成している。 実験にはケーブル長10mの同軸ケーブルもどきを使ったので1,000PF近くの容量を持つ。 従って容量合わせのためCの挿入が必要となるのだが、普通のラジオでは不要であろう。

 実験結果は思ったより見事であった。あれだけ多かった雑音がスーッと消え綺麗な受信が出来るではないか!。やや同調がシャープで合わせにくい感じがするものの、聴こうと思っている放送局全てが見事に受信できた。欠点といえば、受信局を変える度にアンテナの同調を取り直す必要がある事と、最良となる向き・位置を探さなければならない事である。それを除けば満足出来る受信状態だ。そこで、欠点を少しでも減らし、実用に仕上げる取り組みを開始した。

実用中の同調型バーアンテナ

 アンテナの設置は雑音の少ない場所を選んだ。当然ながら屋外となり、ケーブル長は20mを必要としている。 受信周波数を変えるたびに向きを変え、同調を取るのは大変である。そこで、アンテナの向きは固定し、同調だけを手元で可能にする事で妥協することにした。(向きを変える手段は次の課題として残した。機械的な手段はシーラカンスの性分に合わないから電気的手段で解決したいと思っているのだが!)

 最近のAMラジオは、可変容量ダイオードで同調を取るのが一般的となっている。それを使えばリモート同調は可能となる。しかし、手元に部品の持ち合わせが無い。ネットで調べると使えそうなダイオードは販売されている。部品単価はそれ程でも無いものの送料が部品代の何倍も高くつくのが癪だ。他の部品と抱き合わせて・・・と思ったのだが、変な所で吝心が頭を持ち上げてきた。その代わり、数年前に自動車からAMラジオを取り外し、部品取りした事を思い出した。基板が残っていればダイオードが使われているはずだ。執念で基板を探し出し、ダイオードを見つけようとしたものの一苦労しなければならなかった。

切り出したダイオード

「部品取り」した残骸だから、パターンはずたずたに切断され回路が追えない。部品の仕様も外観も判っていのだから確かに大変である。止む無く消去法を使い数点の部品に絞込んだ。パターンをカットしテスターでチェック出来る状態にする。これと思った部品に逆バイアスを加え、同調回路に接続し実際に使ってようやく探し出した。一見はICかと思える外観をしていた。それをパターンごと切り出し使える状態にしたのだ。

最終の回路図

 チューニング電圧は、9Vの乾電池を可変抵抗器で分圧して作る事にした。問題はその電圧を可変容量ダイオードにどう印加するかである。勿論、専用の電線を使えば何の問題もないのだが、信号ラインにバイアス電圧を重畳出来ればそれに越した事は無い。衛星TVのアンテナは電源供給と信号を一本の同軸ケーブルでまかなっているでは無いか!。
 これも試行錯誤を繰り返し何とか出来上がった。使ったダイオードはカソードがコモン接続されている。大入力を想定すると折角ある2個のダイオードを活用したくなる。それが試行錯誤をさせる原因だったのだが、あまり欲張らない方が良いようです。

全体の写真

 かくしてヘンテコなアンテナが出来上がりました。使ってみると素晴らしく綺麗にAM放送が受信できます。少なくとも我が家では、これ以上の状態で受信したことが無いと断言できるレベルです。しかし、使っている内に致命的な欠点を持っている事に気が付きました。AMでもここまで綺麗に受信出来るのだと自慢したくなり、スピーカーをコンポのBOX型に替えて初めて気が付いたのはモジュレーション・ハムでした。しかも、過去に聞いた事の無い綺麗な60Hzの極く浅い変調がかかっているのです。アンテナの同調をちょっとずらせば消滅するのですが!。

 原因はチューニング・バイアス電圧に商用周波数の交流が僅かに重畳しているためでした。回路図で見て分かるるように、バイアス回路は低い周波数では高いインピーダンスを示します。本来なら問題にならないはずの高周波回路ですが、オーディオ回路と同じような配慮をすべきだったのです。可変容量ダイオードのC値は重畳した交流分でも変化します。当然同調周波数が変化するわけですから受信機に加わるRF信号はレベル変動する事になります。モジュレーション・ハムの発生メカニズムと本質は同じでした。

 原因がわかれば手は打てます。アンテナケーブルの引き回しや、アンテナ本体を電流源に近づかないよう配慮し何とか解決できました。一言で済ませましたが、床にも僅ながら電流が流れているのを発見したり、思いがけない事実を知ることが出来ました。

 AMラジオを聴きながら原稿作成も終りに近づいている。指向性を電子的手段で如何に解決するか、次の課題に思いを巡らしているシーラカンスです。果たして解決出来るや!。(05/01/18 完)