安全

 まじめな話をしたい。派遣先の工場でけが人が出た。くわしいことは知らないが足の親指を負傷したらしい。気の毒な話だが、僕は今ひとつ同情できないところがある。というのはこの怪我をした人だが、以前飲みに行ったときに
「俺はこの会社の、メーカーであるというプライドを汚さないために、現場で機械を直すためならなんでもする。クレーンに立って乗ったこともある」
ということを自慢げに語る人だったからだ。言っておく、ものを作る人間として、安全を確保できない人間に誇りもなにもあったものではない。彼の会社を思う情熱はよく知っているが、プライドの保ち方を間違った方向に持っていたようだ。今の派遣先は現場作業等において、安全という面ではまだまだと言わざるを得ない。特に安全を意識しなくても大きな災害がなかったので惰性になっているのだろう。現場に行っても工場内でもなんとなく見ていて危ないなあという作業のし方をしている。多少面倒でも安全性を確保して安心した環境で作業をしてこそ生産性も向上すると思うのだが、溶接や旋盤などの工作作業を大学の実習でしかしたことのない人間がこんなことを言っても「現場には現場の事情があるんや」と一括されるのだろうか。安全についてはまじめに考え直した方がいいと思っているのだが、僕は一番下で外様。なかなか意見を言える立場でもない。そういうことを言える機会があればおおそれながらと言うようにはしているのだが。
 例えば誰かが危険な作業をしていたとする。その誰かが力のある人間だったとすると、そこに「俺がやっているんだからお前もやれ」的な空気がどうしても流れてしまう。これが一番恐い。逆に気の弱い人間だと、なにも言われなくても
「ここでやらなければ嫌われるのではないか?」
と思い込んで危険な作業をついやってしまうということも考えられるわけだ。それで怪我をしたら、目も当てられない。
 柔道で負けたくないがために手をついてしまい、怪我をした選手がオリンピックでいた。美談に取られがちの話だが、僕にとってこの選手のしたことは最低である。負けぬためなら怪我をしてもよいというのだから。格闘技はなにをするにしてもまず受身から始まる、理由は当然怪我をしないためだ。それができないということは、柔道を知らないということである。勿論その選手もそんなことは重々承知で「つい」手が出てしまったのだと思うが。
 かく言う僕もこの間空調機器の架台の寸法を測るために安全帯なしで屋根に登ってしまった。反省。
 彼の早い回復を祈る。

 


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