JR京都線のおかま
あれは普段と変らない、朝のことだった。
俺はいつものように大阪行きの普通電車に乗り、発車を待っていた。電車の出発を知らせるチャイムが鳴り響く中、男が駆け込んで来た。そいつは俺の隣に座った。やがて電車はゆっくりと動き出した。
♪フンフンフンフンフンフン
いきなりの鼻歌である。それも鼻歌というレベルをはるかに超えた大きな声で歌っている。なんじゃこいつは?と思いつつ、隣を見る。見た目はごく普通の兄ちゃんである。めがねをかけていてやせている。鼻歌を歌いがら、かばんをガサゴソと探っている
「あら、なにかしら、これ?あっはっは、やだん、傘だわ、もう、雨なんか降ってないのに!」
こ、これは...おかまだ。うわあ、それも、変なおかまだ。うわあ。
満員電車に乗って大声で鼻歌を歌い傘を見つけて訳の分からないことを言うおかまが隣に座っている
のか!う。う。
※以下は口調をおねえ言葉で読んでいただくと臨場感が味わえます
「あ、そうか、雨降ってないんだったら日傘として使えばいいのね、あったまいいわー、あたし。ひゃっひゃっひゃ」
参ったな、おい。と、とにかく現実から逃れるため寝ることに...
「あら!でもこの傘...(サッと傘をかばんから取り出す)」
ひいっ!トチ狂って傘振り回されたら叶わない。目は開けておかなければ...寝ることもできんのかい。
「黒いわね...ぷ。くっくっくっく。あーはっはっは。日傘なのに、日傘なのに、黒だなんてぐうっふっふっふっふ(爆笑している)。おかしいー♪」
おかしいのはおまえじゃ。日傘はたしか白だと太陽を反射するから実は黒の方が好ましいとかいう話を聞いたこともあるし、黒でも特におかしくないはずだ。日傘=白っていう図式はもう古いぐらいのもんだぞ。
傘はやがてかばんにしまわれ、この人もしばらくはおとなしくしてそうだったのでちょっとでも眠っておこうと目を閉じた。やがてウトウトとしかかったころ...
ぽあん、ぽあん、ぽん、ぽん、ぽん、ドスンドスンドスン!
シートがやたら揺れるので、すわなにごとと思い目を開けるとそこに写ったものは
おかまが座席をトランポリンのようにしてはねている光景
であった。
「固いわあ、固い、固いわあ。なんでこんなに固いのかしら?もうちょっと柔らかくならないものかしらね、ほんと。固...あっ!(かばんをガサゴソと探る)」
今度はなんなんだよおおお
「確かこのかばんのなかに椅子を柔らかくする薬が入っていたはずだわ!」
あんたのかばんは四次元ポケットか?
「おかしい!ない、ない、ない、なんでないのよ〜」
ないんだよお、椅子を柔らかくする薬なんて、この世にないんだよおお(魂の叫び)
「誰なの?誰が盗ったの?だ・れ・な・の!」
車内がこの声で静まり返ったその刹那
「あなたね!」
ドッキーン(心臓が止まりそうになっている)
うううううう、わああああああ!僕かあ!僕なのかあ!椅子を柔らかくする薬を盗ったのは、僕だったのかあああああ!うっうっう(恐る恐るおかまの方を見る)。
おかまは僕の反対側に座っているオヤジの方を見ていた
よかったああああああ!(心からの安堵)
でも振り返られて
「じゃあ、あなたね!」
なんて言われたらどうしよう。ひええええええ(再び高まる緊張感)
「(車内アナウンス)間もなくー、大阪、大阪に着きます。出口は、左側...」
もうすぐ、もうすぐだ!はい、電車がホームに入って、はい、停車して
プシュー、ゴトン!
ドアが開いた!でも今飛び出したら不自然だから、もうちょっと待とう、あくまでも、自然に。よし、もう大丈夫だろう、夢にまで見たここを離れられる瞬間がやっとやってきた!よし、いくぞ、立つぞ!せーの
スクッ
同時に立つなよおおおおお!
そして彼(彼女?)は、少し空いた車内をスキップしてホームへ降りました。彼の「椅子を柔らかくする薬」を探す旅は、今始まったようです。
−了−
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