オカモト


0.
 オカモトとは、
Dディーゼル社というところで一緒に働いていた僕と同じ派遣会社にいた奴です。バカです。常識知りません。このDディーゼル社で働いている間中僕がこいつにどれだけ迷惑をかけられたのか、涙涙の物語を読んで頂きましょう。

1.
 Dディーゼル社はもうひとつ面白くないところでして、朝はとてもブルーな気分で仕事につくわけです。なんとか午前中を乗り切ると昼食休憩で、これが唯一のオアシスです。この職場で、唯一の、ね。昼食は大体弁当なのでオフィスの机でわらわらと広げてお気に入りの本を目のおかずにパクつくわけですが、目の前にオカモトが座っておりまして、人が唯一楽しみにしているお昼休みというオアシスの水をかきまわして濁らしよるんです。このオカモトも弁当で、僕と向かい合って食べておるわけです。で、こいつがまあ飯を食いよるわけです。食わんでもええのに食いよるわけです口を開けて飯を食いよるわけです。ご存知の通り日本の米っちゅうのは水分と粘り気を多く含んでおりますので、こいつが反芻するたんびに口から

んにっちゃ んむっちゃ んくっちゃ

ちゅな音が聞こえるわけです。それから水筒の茶なんかを生意気にも飲みよるわけです。普通、人がお茶を飲むときの音は

...つっ、ごく、ごく、ごく

こんな感じになるのではないかと思うのですが、こやつはコップを口に当てて、勢いよく吸い付けて飲むために

つつつつつ!つぼっ!つぼっ!つぼっ!

ちゅな感じの音を発しながら飲みよるわけです。んでもって、なんでか知らんけどこいつは飯を食うのがとても早くて、これもかないません。え?そんな奴やったら早よ終わってくれた方がええんとちゃうかって?

ちっちっちっちっちっち!

これは絶対ではありませんが、ゲップをすることがあるのです。普通人前でゲップをする...基本的にはやったらあかんのでしょうが、やむを得ずゲップが出てしもたときは、口をつぐんで

...ぐふっ

ぐらいのもんです、ところがこいつは

ぐわえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っぷ

全開でかましやがります。食った後こいつは自分の弁当箱を洗いに行くわけですが洗っている途中でこれがまた

くわーーーーーーーっ、ぺっ!かうわっ、ぺっ!

と、流しにタンを吐き出しよります。もちろん外には丸聞こえで、僕が食事中なのはいうまでもありません。
 想像して見て下さい、ここから先も面白くない職場でこんな奴が毎日目の前で飯食ってるんですよ

つつつつつ!つぼっ!つぼっ!つぼっ!

んにっちゃ んむっちゃ んくっちゃ
つつつつつ!つぼっ!つぼっ!つぼっ!
んにっちゃ んむっちゃ んくっちゃ
つつつつつ!つぼっ!つぼっ!つぼっ!
ぐわえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っぷ
くわーーーーーーーっ、ぺっ!
かうわっ、ぺっ!


俺、こいつ殺めても情状酌量で無罪になる自信あります



2.
 Dディーゼル社では、毎日駅から工場まで社バスに乗って通っていたわけだが、その帰りのバスで出発を待っていると、オカモトがこっちへやって来た。
「あ、あの、尼からさん、あのですね」
「はい」
「僕が見ている限り、なんかこう、尼からさんって、朝、挨拶とかしてないと思うんですよ」
「はあ?」
「だからですね、朝ですね、ちょっと気を付けて挨拶とかされたほうがいいと思うんですよ」
正直聞いていてむかついたが、こいつのいうことをハナから否定するというのは如何なものか。俺はこいつが嫌いだが、嫌いだからといって、こいつの言うこと全てに耳を傾けないというのは、ちょっと違うんじゃないか?そういうわけで、自分のことをもう一度よく考えてみようと思い、朝からの自分の行動を思い起こしてみた。
 駅に電車が到着したら、社バスの待合へ行く。オヤジどもは後方でタバコを吸っていて、列の前のほうは空いているから、そこへ並ぶ。ほぼ先頭でバスに乗り、そのまま最後尾のシートに座る。工場に着いたら、当然降りるのは一番最後である。僕は3Fに勤務しているが、ロッカーはなぜか2F用のところにあり、同じフロアの人とは顔を合わさない。着替えたらそのままオフィスの入り口に一番近い自分の席に座り、仕事の準備をして、終われば中央の通路からCAD室へ行って、トイレか昼飯でもない限り帰るまでこもりっぱなしである。

どこに人とすれ違う機会があるというのだ?え?

俺は挨拶を「しない」のではなく「する機会がない」のである。人と話すよりも、CADに向かってブツブツ言っている方が言葉の量は確実に多いという環境にいるのだ。そんな事情も知らずに「挨拶しろ」だと?

なんで人間としての躾がない奴に社会人としての常識を注意されなきゃいかんのだ?

悲しくなってくるよ

3.
11:54
 うーん、仕事が終わってしまった。俺レベルのチェックは済んだし、あとは担当のホンジョーさんに見せるだけだが、変に突っ込まれて昼飯に食い込むとイヤなので、CADをいじる振りをして茶を濁そう。
「ホンジョーさーん、すいません、ホンジョーさーん」
こ、これはCAD室でも俺の向かいに座っているオカモト。でかい声で呼びやがって、ついでにこっちに気付いたらどうするつもりじゃこのアホ


11:59
 オカモトとホンジョーさんはまだ話している。いいぞオカモト、そのまま昼まで粘りこめ。チャイムが鳴ったら俺は脱兎の如くCAD室から逃げ出すからな。
ホ「...ということです」
オ「あ、そうですか、それはよくわかりました」
ホ「はい...あ、尼からさんできました?」
尼「()」
尼「い、いちおう終わりましたけど」
ホ「そうですか、じゃあちょっと見せて下さい。あ、だいたいできてますね」

12:00
キーン コーン カーン コーン
ホ「ええと、でもここがちょっとおかしいですよ、それと、この図の基準はセンターからとってますが...」


12:01
スタスタスタスタ(オカモトが俺の横を通り過ぎてCAD室から出る)

12:07
ホ「...とまあ細かいこと言うとこうなるんですけど。あ、もうお昼ですから、午後からやりましょう」

尼「ありがとうございました」

CAD室を出て、自分の机で弁当を広げ、食べ始める。目の前には、当たり前のように既に弁当を食べているオカモトがいる。

つつつつつ!つぼっ!つぼっ!つぼっ!
んにっちゃ んむっちゃ んくっちゃ
つつつつつ!つぼっ!つぼっ!つぼっ!
んにっちゃ んむっちゃ んくっちゃ
つつつつつ!つぼっ!つぼっ!つぼっ!
ぐわえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っぷ
くわーーーーーーーっ、ぺっ!
かうわっ、ぺっ!

 俺はすくっと席をたち、右手を奴に向けた。手には指紋が付かぬよう予めテープが巻かれた銃が握られている。俺の肩と銃口と奴が直線で結ばれる少し前に撃鉄を起こす。カチッ。

バーン

周りにいる客を驚かせるために、わざと大きな音がするようこの銃は細工されている。

カチッ。バーン

一発目は眉間から頭部を貫通して、後頭部からは血が霧のように噴き出した。二発目は喉に命中した。奴は大きく上体を揺すり、机に頭を叩きつけるようにして前のめりに倒れた。その衝撃で机はひっくり返り、轟音とともに奴は崩れ落ちた。俺は呆然とする客と目を合さぬように、また、そらさぬようにして首を左右に振って目配せし、振り向きざま、後ろ向きに銃を放り出し、店を出た。銃が床を転がる音が響く。

ゴトトトッ!

♪パー パパパー パー パパパー

(※話の途中で、映画「ゴッドファーザー」の映像が紛れ込んでしまったことをお詫びします。)


 でもマジでこいつはいっぺんドン=コルレオーネに裁きを加えてもらった方がいいのではないのだろうか?

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