キミの帰還 8



 ルークが発見され、かつての仲間達がガルディオス邸に滞在するようになってから一月ほどがたった。
 ガイは毎日のようにルークに会いにきていたし、そのうちルークもマリィを連れてガイのいる邸内に遊びに行くことが多くなっていった。
「ねーティア、あたし達が帰ってももう大丈夫なんじゃない?あの二人。あたしらがいなければ今まで以上に愛が燃え上がるー!みたいな」
 アニスがシーツを畳みながらティアに話しかけた。
 たしかに、ティア達がルークにできることはもうないし、あの二人だけの方が関係の進展も早い。しかし、これでめでたしめでたしと言い切ってしまうことがティアにはためらわれた。
「ルークはガイに惹かれているようだし、記憶がなくても元の関係に近いものを取り戻せるならそれはそれでいいと思うの、でもガイはルークに言っていないことが多すぎる。
 だから元に近い関係とはいえ、まだどこか歪んでいる気がするの、私の思い過ごしだといいのだけれど」
 ティアやアニスにも本来の責務や目標がある、すでにジェイドは仕事に戻り、休日や空いた時間に訪れるようになっていた。もう半月もしたら自分達も帰るべきだろう。
 ガイとの関係を取り戻しながら記憶も徐々に戻っては…なさそうだ全く。
 やはり、消失から戻ってきて、緩慢でも関係を取り戻したことだけでも満足すべきなのだろうか。
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 カーテンの隙間からさす光が赤色に変わっていた。
 ルークは重い体を起こしてカーテンを引く。
 紅い光に染まった室内にはルーク一人。この部屋の中でルークの髪が一番赤いことだろう、ここで、こうして目覚めた時はいつも、直前まで一緒にいたはずの人物は去って、いない。
 ガルディオス伯爵の私室…。
 マリィの世話を老夫婦や使用人に任せた昼にはガイはルークをここに連れ込んでひっそり抱くようになっていた。
 ガイが大切だ。だから『心の友』にしては出すぎた関係も構わないといえば構わない。
 しかしこの部屋でのみ、ガイのルークを見る目が、ルークを素通りする。口で言わなくても、ガイの満たされていないという想いが伝わって。
 意識がなくなるまで求められ、戻るとガイには置いていかれている。きっとガイは備え付けの浴室でシャワーを浴び、すぐに執務に戻るのだろう。
 求めて、何かを引きずり出せるか試して、だめだったから放り出すのだ。
 夜が来る前に庭番小屋に帰らなければ、ため息をつきながらルークは小脇にまとめられていた服をまとって壮麗な私室を後にした。

 ルークはガイに言えない。自分が記憶を失っているから、別の者を見ながら自分で妥協しているのではないか、と。
 ガイはルークに言えない。記憶を失う前のように、全ての気持ちを捧げて自分を見てくれと。
 言わないからこそ余計にズレを生じているのに、求めることをやめられず、壊すことを恐れ、言い出せない言葉は降り積もった。

 休日の午後、一週ぶりにジェイドが訪れたので一同はガルディオス邸の庭にテーブルを出し、日の下でお茶の時間を過ごしていた。
 ガイはミュウと戯れるルークに近づく。
 冗談を言い合ったり食事をともにする時は一緒になって笑ってくれるのに、愛を囁いた時だけ、ルークはガイに戸惑ったような困り顔をみせる。そうされてガイが想うのは笑って愛を囁き返してくれるルークの顔。
 俺の気持ちはおまえにとっては重荷なんだろうな。
 回りだした感情をとめることができない。
 ルークが困るのがわかっていても、真昼の逢瀬に呼びつけ続け。
 ついに先日、拒まれたのに押し通してしまった。
「ルーク、昨日は…すまない」
「なんだガイ、そんな肩肘はっちゃって」
「ルーク?」
「ああ、ティアのケーキ焼けたみたいだ。一緒に食おうぜ」
「無理するな…怒ってるんだろ?」
「怒ってない俺だって、ガイに悪いと思ってることがある。だからあいこだ。ただ…もうおまえの部屋には行けないけど」
 親友だから傍にいる、ガイの肩を抱いてテーブルへ連れるルークの横顔を見て、ガイは嘆息した。
 せっかくこちらを向いてくれるようになったのに、以前の恋愛関係について告げるタイミングを完璧に逸してしまった。

 しかし、停滞するガルディオス邸の状況を打破する転機は唐突に訪れた。




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続き ---------------------------
前回ほほえましく終わってたのに
いきなりすれ違ってる感じです。
ガイ様…あなた昼間っからなにを…
って方は行間でも注視してください。
期待できない程度なものがあります。
…ほんとなら1/30にupしてたのにうっかり一部更新しそびれてて
見れなかったはず…無駄足踏まれた方スミマセンっ
2006/2/1
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