第二話

 1200年以上の歴史と文化を持ち、日本人の心の故郷と言われている町、京
都。その京都の山科区にある、JR山科駅から少し離れた住宅街の中の細い路
地の奥、地元の人達ですら分かりずらい所に「居酒屋しろがね」と言う店があっ
た。「こんなとろに、客が来るのか?」と、誰もが疑問に思う所だった。
 その店に入るのか、一組の男女がその細い路地に入っていった。男の方は、
淡い水色のシャツを着た美青年、女の方は、赤系統のシャツにジーンズを履き
腰までとどく長い黒髪の気の強そうな女性だ。その二人は、小走りで路地を行く
とその店の戸を開けるや否や、
「すみせまん!!おそくなりました!!」
と、大声で言いながら入っていってきた。その声に反応して店の中にいた全員、
五名の男女が振り向いた。
 「おいおい、そんな大声出さなくったて聞こえてるって、狭い店なんだからさー」
耳の穴を指でほじりながら、テーブル席に座っていた女性がぼやいた。
 「シンシア、狭いは余計だと思うが・・・」
カウンターの向こうから、五十代半ばぐらいの男性が声をやんわりと抗議すると
シンシアと呼ばれた女性は、苦笑いで答えた。
 「いいよ、それより、リンとハク、そんな所で突っ立てないで速く座りな。」
店の中にいた大柄な女性が声を掛けると、リンと呼ばれた女性とハクと呼ば
れた男性は、4人掛けのテーブルのいすに腰掛けた。それを見届けると、その
大柄な女性は、A4の用紙にプリントされた資料を全員に配ると、良く通る声で
話し始めた。
 「皆も知ってると思うけど、ここ一週間の間に、京都の左京区で二件、東山区
で一件、山科区で一件の猟奇殺人事件が起こってる。何故、猟奇殺人かと言う
と、被害者は物凄い力で引き裂かれ食べられた後が有るからだ。被害者は、年
齢もバラバラでこれと言った共通点は無い。警察の必死の調査にも関わらずこ
れと言った有力な手がかりは、見つかってないとのこと。」
 「で、神楽さんとしては、これは妖怪の仕業だと考えた訳ですね。」
二十代後半のスポーツ刈りの男が話しかけた。
 「作助、人間の体を普通の人間が引き裂ける訳無いだろ。それに、食ってるん
だぜ、どう考えたって妖怪の仕業だろう、なーに考えてんだか・・・」
 作助と、呼ばれた青年は目つきの鋭い少年の方見て、
 「風治、お前は、一言多いな・・・」
と言った。そんな二人のやり取りを横目で見ながら、シンシアと呼ばれた赤毛の
女性が、「神楽、何か手がかりにはあるのか?」と尋ねると、神楽は溜息をつい
てそれに答えた。
 「何の手がかりもないのか、頼り無い話しだなぁ。」

店の主がそう言うと、神楽は
 「他のネットワークにも色々と手伝っては貰っているんだけど、今までのような
前兆とか、妖怪がらみの事件に巻き込まれた人間が助けを求めるとかと違って
突然の事だから、どう調べて良いのか解らないですよね、とかく今は、他のネッ
トワークと協力して見回りを強化するしかないようです」
と、彼女は暗い顔で言った。それに、店の主もそうするしかないかと同意した。

 彼らは、妖怪が如何したとか手がかりどうのとか、彼らの会話かなりおかしか
った。実は、この店の中にいる男女達は全員、人間では無い。彼らは、妖怪と言
う人間とは違った生を受けた超常的存在だった。遅れてたことを詫びて入ってき
た男女の内、淡い水色のシャツを着た翡翠の瞳を持つ男は、速水琥珀と言う名
前で正体は、白い龍であり、赤系統のシャツを着て腰まである長い黒髪をした
女は稲垣花梨と言う名前で正体は、三本の尾を持つ白狐で、A4の資料を配っ
て説明していた大柄の女性は、鬼島神楽と言う名前で正体は身長が230センチ
もある女性の鬼の妖怪である。又、シンシアと呼ばれた女性は、ドラキュリーナ
であり風治と呼ばれた目つきの鋭い少年は鎌鼬、作助と呼ばれたスポーツ刈
りの男は、人々の忍者の超人的な能力に対する憧れによって生まれた、黒装束
の忍者妖怪で、「居酒屋しろがねの」の主人は、鎧武者の妖怪だ。
 彼らは、人間達の想いや願い、龍や鬼、人魚や河童などの伝説の生物が居る
と言った想いなどが集って生まれてきた存在なのだ。
 どうやら彼らは、自分達と同じ存在が、事件を起こしている様なので、それを調
べる為の打ち合わせをしていたのだ。

 10数分後、打ち合わせを終えるころ、ハクが神楽に話しかけてきた。
 「神楽さん、滋賀県の米原町付近で、光る粉雪と言うか光の粒子が降ったのを
見たと、千尋のクラスメートが言っていたそうですが、その後、何か進展があった
のでしょうか?」
 「千尋ちゃんによれば何の進展も無いそうだよ。この噂は、このまま立ち消え
になるじゃないかなぁ。」
 「そうですか・・・ じゃぁほっといても大丈夫みたいですね。」
 「季節はずれの光る粉雪と言う噂じゃぁ何の害も無いしな。ほっといても大丈
夫だろう」

 神楽はそう言うと、じゃぁ、私は仕事があるからと言って店を出ていった。神楽
が店を出行くのを見届けると、シンシアか゛ハクとリンに話しかけてきた。
 「ハクとリン、此方の世界で生活するようになってから一年以上経つ訳だけど、
もうなれたか?」
 「ああ、だいぶ馴れたけど、まだ少し戸惑う事があるよ。ハクお前は?」
 「私も馴れてきてはいるが、色々と戸惑う事や困る事が多いよ。」

 「無理も無いよな、アッチの世界とコッチの世界じゃぁ何もかも違う訳だし、特
に、オレは、アッチの世界での生活の方が長かったからなぁ。」
 そんなやり取りを聞いていた作助が話しによってきて、
 「そのうち馴れるよ。自分だって生まれたときは、戸惑ってたからな。神楽さん
に出会って、ここのネットワークに保護されなかったらどうなっていたか・・・お二
人もそうだろ?」
 「そのとうりですよ。千尋と再会する約束を安易にしてしまったが、よく考えてみ
たら、こちらの世界に来てからどう生活するかまったく考えてなかった。下手をす
れば千尋はおろか、荻野夫妻までに多大な迷惑をかけてましたよ。神楽さんや
ネットワークの人達には、感謝してもしきれませんよ。」
 リンもハクの意見に賛成して、大きく頷いた。そして、二人は、こちらの世界に
来た時の事を思い出していた。





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