第3話

 ハクは4年と数々月前、元の世界へと帰って行く千尋を見送った後、千尋と
再会する約束を果たすべく、油屋の主、湯婆婆と新たな契約、帳場頭の職を
辞め、三年間大湯番の仕事をすると言う契約を結んだ。不慣れな仕事で色々
と大変ではあったが、「千尋と再会する事が出きる」その事を思えば大した事
ではなかった。
 そして、三年間見事に仕事をこなしたハクは、湯婆婆の部屋へと呼び出され
た。
 「ふん、まったくつまらないねぇ、途中で弱音を吐く事を期待してたのに見事
こなしちまいやがった。」
 湯婆婆は、ブツブツと愚痴をこぼしながら契約書を取り出すと、ハクに投げて
よこした。ハクは、それが本物である事を確認すると神通力で処分してしまった。
 「ハク、あの人間の小娘のところに行くそうだが、行って如何するんだい?あ
んたは、拠り所を失ってしまった中途半端のろくでなしのタダ龍が向こうの世界
に行った何ができるんだい?向こうの世界の事を何一つ知らないあんたが、あ
の小娘の所に行って何もできやしないよ!!大きな迷惑をかけて、ハクなんか
大嫌いだと言われるのがオチだよ!!それでも行くと言うのかい!!」
 (黙って聞いていれば好き放題言いやがって!!このババァ!!)
危うくそう言いかけたが堪えた。こんな事で千尋に合いに行くのを不意にする事
は無い。
 「はい、それでも私は千尋に会いに行きます。どのような結末になろうとも、私
は千尋との約束を果たしたいその事を糧にして来たのですから・・・」
 湯婆婆は、フンと鼻を鳴らすと声色を下げて、
 「決心は変わらないと言う訳だな。見上げた根性だ。まぁいい、実はな、船着場
の所にあの忌々しい私の姉が待ってるよ。向こうの世界で暮らせる様に世話し
てくれるそうだよ。まったくとんだお人好しだねぇ。さぁ、サッサと人間界でも何処
でも行ってしまいな!!」
 湯婆婆は、そう言うとシッシッと手を振った。ハクは、そんな湯婆婆に一礼する
と部屋を出ていった。

 ハクが船着場に着くと、湯婆婆の言ってたとうり湯婆婆の姉、銭婆が待ってい
た。
 「ようやく来たかい
今まで大変だったろう?あの人は素直じゃ無いからねぇ。」
 「いえ、千尋に会えることを思えば大した事では、ありませんでした。」
 「そうかい、あ人のから聞いたと思うが、あんたがむこうの世界で生活するに
は、今のままじゃ駄目だ。あんたは、むこうの世界の事を何も知らないからね。
どうだい、あと一年辛抱できないかい?そうすれば、むこうの世界で生活する為
の知識や決まり事を覚えていった方が言いと思うんだよ。その為の手はずも整
えてあるんだよ。」
 「お気持ちはありがたいのですが、私は一刻も速く千尋に会いたいのです。」
 「ハク龍、あんたの気持ちは、よーく分かる。しかしだ、良いのかい?今のまま
あの娘の所へ行ったて戸惑う事ばかりで迷惑かけるだけだよ。それよりも、むこ
うの事を勉強した法が良いと思うだがねぇ。それにねぇ、あの娘ことは、大丈夫
だよ。一度あった事は忘れないものさ、思い出せないだけでね。」
 ハクは、迷っていた。確かに湯婆婆や銭婆の言うとうりだ。自分は、千尋が帰
って行った世界の事を何も知らない。ならば少しで良いから、向こうの事を勉強
した方が良いのかもしれない・・・
 「分かりました。銭婆様。宜しくお願いします。」
 「そうかい、分かってくれたかい。でも、教えるのは私じゃない。教えるのは、あ
のトンネルを抜けた所に居る人物だ。その人物は、大柄で白い髪の毛をした女
性で鬼島神楽と言う鬼の眷属の一人だ。私の知り合いの一人さ。彼女の言う事
を聞いてれば全てうまく行くよ。私が保証する。」

 ハクは、銭婆に「分かりました、有難う御座います。」と頭を深く下げると、トン
ネルの方へ歩いて行った。

 トンネルを抜けると銭婆が言ってたとうり、大柄な女性が待っていた。ハクの姿
を見つけると、あんたが琥珀かい?と話しかけてきた。
 「はい、そうです。あなたが鬼島神楽さんですか?」
 「ああ、そうだよ。銭婆から聞いてると思うけど、これからこちらで生活するため
の知識や決まりを覚えてもらうよ。なに、心配いらん。あんたの事情は聞いてい
るよ。で、それなりに配慮さしてもらったよ。」
 「配慮とは?」
 「あんたが学ぶ所は、一種の隠れ里みたいなもので、時間の流れが内と外で
は、違うんだ。例えば、その中で一年生活しても、外では一ヶ月ぐらいしか経っ
ていないと言うぐわいに成ってる。だから、焦らなくて良いよ。じゃぁ、行こうかむ
こうに車を止めてあるんでね。」
 「はい!!宜しくお願いします。」
そして、ハクはネットワークの人達から様々な知識を教えてもらった。しかも、戸
籍や住む所、まで色々と用意してくれたのだった。

 リンの場合は、ハクとは違った形でこちらの世界へやって来た。ハクがむこう
の世界へ行ってから大体一ヶ月ぐらい経うとしていたとき、突然、リンは湯婆婆
に執務室に来る様に言われたのだった。そして、リンが執務に入ると意外な人
物が執務室で湯婆婆と一緒に待っていたのだった。
 「あ、あ、あ、あ、綾香様、い、いつ此方にいらっしゃたのですか!?」

 綾香、某州を納めている九尾の狐の一人で、生まれながらにして強力な神通
力を持った実力者、しかも、部下達からの信頼も厚い。リンにしてみれば、尊敬
の対象であり、憧れであり、雲の上の人なのだ。何故かは、知らないが自分を
気に入ってくれいるのだが・・・
 「久しぶりやなぁ、リン、今回は客として来たんではなくて、そなたを迎えに来たんや。」
 迎えに来た?リンが訳がわからず押し黙っていると、湯婆婆が話しかけた。
 「綾香様が、あんたを身受けしたいと言って来たんだよ。事情は、よく解らな
いけどね。」
 そう言うと部屋の片隅を指差した。其処には、千両箱が五つ置いてあり綾香の
手にはリンが、ここで働くときに交わした契約書があった。
 「あんたにも色んな事情ある事は、解ってます。しかし、今は事体が窮する事
なんで、急いでますんや。細かい事は後で話しますかい、記憶と神力を取り戻し
なさい。カリン!!」

 カリン、のとこだけ力をこめて言うと、綾香の手にあった契約書は消滅し、変わ
りに、リンの頭の中に昔の記憶と神通力戻っていった。

 その後、リンは、丸一日使って身の回りを整え、同僚や上役達にお世話になっ
た事を挨拶して回り、見送りを受けて油屋を後にした。そして、稲荷神の本拠
地、伏見稲荷大社にある白弧達の隠れ里で、詳しい説明を受けた。
 数年前、人間の世界で妖怪たちの大きな戦があった。勿論、その戦は、此方
の勝利に終わったのだが問題も発生した。まず、戦いに参加した者達、京都の
結界を守護者の討ち死や、そればかりか、結界事体の大幅な弱体化、それに
よって、封印されていた良くないもの達の復活や出現、そう言った者達の退治や
結界の維持として、十数名を人間界へ送り込む事となった。その内の一人が、カ
リンと言う訳だった。
 その後の事は、ハクと対して変わらない。綾香様が鬼島神楽に後のことをたの
まれ、彼女がカリンの身元引きうけ人と成ったわけだ。

 そして、二人は、ネットワークでこちらの世界で生活するため知識を得て生活
しはじめ現在に至るわけだった。
 ちなみに、神楽は、社会勉強になるからと、学生になることを薦めた。ハクは、
素直に応じたが、リンは「オレは、勉強が苦手だから」と働くことにしたのだった。

 結局の所二人が、此方の世界で、生活できるように手はずを整えてくれていた
のは、鬼島神楽、彼女のおかげである。住む所や戸籍、身分など色々と用意し
てくれた訳だし。でなきゃ、途方にくれる事この上も無しとなっていただろう。
 まぁ、そんなこんなで、リンとハクは、千尋と再会を果たしたのだった。




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