第四話

 翌日、JR東海道本線の電車に、荻野千尋は乗って京都方面向かっていた。
目的は、ハクやリンに会うためにである。千尋は、電車の窓の外の景色を眺め
ながら溜息をつくと、「遠いなぁ」と呟いた。
 無理も無い。千尋が住んでいる家から京都山科区まで、約一時間ぐらい掛か
る。しかも、電車賃だって馬鹿にはならない。溜息をつきたくなるのも当然の事
だった。それだけでは無い。ネットワーク「居酒屋しろがね」の店にそう簡単に
は、入る事が出来ない。これも、千尋の悩みの一つだった。
 何故は入れないのか?実は、「居酒屋しろがね」に入る出入り口付近には、人
払いの結界が張ってあって、普通の人間が入れない様になっていてる。人間の
千尋がその店に入りたければ、誰でも良いから妖怪の人と一緒に行けば入る事
が、できるのだが、そう簡単にはいかなかったりする。
 ハク、作助さん、神楽さん、この三人は駄目。朴念仁と言うか、融通が聞かな
いと言うか、とにかく「妖怪が、出入りする所に、普通の人間が入っちゃ駄目」と
言って、入れてくれない。
 店の主、武男さんは論外。常に店の中にいて外に出る事は、異様に少ない。
 で、残りの、リンさん、シンシアさん、この二人は、頼めば入れてくれる。風治さ
んは、神楽さんが怖いので断ることもあるが、神楽さんが居なければ入れてくれ
る事もある。そう言う訳で、今回は山科駅て゛、リンと待ち合わせをしていた。

 山科駅でリンと合流した千尋は、リンに手を引いてもらって、例の人払いの結
界を突破、店の中へと入っていったのだが・・・
 「リン、お前なぁ、何の用も無い普通の人間を店に入れちゃぁいけないって、何
回言えば解るんだ?」
 案の定、神楽がリンと千尋を睨みながら言った。店の中には、神楽の他に、武
男、シンシア、ハクが居た。
 「いいじゃねえかよ!!別に減るもんじゃ無し!!それに、人間が出入りしたっ
て、別に害は無いだろ?」
 「リン、気を使ってくれるのは嬉しいのだが、やはりここは・・・」
 「ハク、そのにやけた顔で言ったて説得力、ゼロ」
 ハクは、リンの台詞にを聞いて、自分の顔を無理やり引き締めるが、頬が少々
弛んでしまう。
 「私も神楽さんも、千尋を危険な目に会わせたくないのだ」
 「そこを何とかしろよ!!」
 ハッキリ言っておくが、ハクや神楽は千尋に意地悪をしたく店に入れようとして
ないのでは無い。チョットした理由があるのだ。
 何故なのかは解っていないのだが、人間の中には、何故か妖怪とか物の怪と
かに、やたらと好かれる奴がいたりする。かつて、東京のネットワークの一つ、
「ウサギの穴」があって、其処に出入りしていた「守崎摩耶」と言った人間がいた
のだが、この人間の娘は、やたらと妖怪に好かれ妖怪がらみの事件に、よく巻
き込まれて危ない目によく合っていた。妖怪に関われば関わるほど。

 しかし、この「守崎摩耶」は、「夢魔」とか言う力を持っていた。「夢魔」とは、某
漫画家の連載漫画のキャラクター達が使う「スタンド」とか、「思念体」みたいな
自分の意志や知性を持たない半妖怪で、その能力を使うことによって危機を脱
することが出来ていたのである。
 しかし、千尋は何の力も持たない普通の人間だ。妖怪がらみの事件に巻き込
まれたら、命の保証は出来ない。だから、ハクや神楽、作助は千尋を店に入れ
るのを控えて欲しい訳であった。
 だか、これに対して違う意見を持つのが、リン、シンシア、風治であった。彼ら
の考えでは、千尋が妖怪に好かれやすい体質ならば、なおの事、目の届く所に
置いていた方が危険対して素早く対処できるから、出入りさせるべきだと主張し
ている訳だった。
 当事者の千尋としては、やはりここに出入りしたい訳である。守られた約束、
二度と会う事は無いと思っていた人との再会、ハクとリン、そして千尋も学業や
仕事などでなかなか会えず、会うのは、月に二、三回程度、(勿論、電話やメー
ルなどで連絡し合ってはいるが)少しでも二人の傍に居たいと思うのも仕方の無
いところ。
 千尋は、もめている二人を見捨てて、カウンター席に座ると、ソフトドリンクを注
文する。武男の止めないのか?の問いかけに千尋は首を振る。始めのうちは止
めに入ったが、矛先が此方に向いたり、話しが拗れたりするので止めには入ら
ない。千尋にも学習能力はある。他の者達も馴れてしまったのか、あえて止め
なかったりする。

 ある意味、不毛なやり取りも長く続かなかった。神楽の携帯電話が鳴っため、
不毛なやり取りに終止符が打たれたのである。他人の電話を邪魔するほど無神
経では無い。
 「はい。鬼島ですが・・・・ああ、三平太か・・・え?面塚?・・・・・・・ちっと止まっ
てくれ今、思い出すから・・・ええと、たしかあれは・・・・・・」
 「ハク、三平太て誰?」
 千尋が不毛な言い争いが終わったハクに尋ねてきた。
 「会った事は無いのだが、神楽さんの知り合いで、正体は河童なんだそうだ。
特定のネットワークには所属せず、日本全国を放浪してるらしい。今は、宝ヶ池
にいつ居てるようだが。」
 ふーんと、千尋は訳も無く感心する。
 「・・・・・・・あーと、思い出した!!確か二百数十年前に法力僧達と共にしとめ
た奴だ!!改心する気が微塵も感じられないので、二度と復活しない様に塚を
作って封印したんだ!!で、それが如何したんだって?・・・・・・なにぃ!!壊さ
れてる!!あそこは、人間に壊されない様に結界を張って別次元にしてあるん
だぞ!!それがどうして・・・・・・ああ、解った。宜しく頼むよ。」
 神楽は、携帯を切ると大きな溜息をついた。それと同時にシンシアが尋ねてき
た。
 「オイ、その面塚て何だ?二百数十年前って・・・」
 「ああ、昔、私らの眷属で鬼面と言った奴が居た。山から時折下りて町や村を
荒らしていた奴だった。あんまり悪さばかりするんで、法力僧らと共にしとめて封
印したんだが・・・復活したって事か。やっかいだなぁ。アイツ、物凄く執念深いん
だよなぁ」
 神楽がげんなり顔でぼやいた。とにかく確かめに行かなければならない。
 「水神の御神刀の事も有るし・・・次から次へと問題が起こるなぁ。以前は、こん
な事は無かったのだが・・・」
 「御神刀?」
 「あるネットワークの所有物で、水の神、龍が変化したと言い伝えがある、あい
くち作りの小刀だよ。悪い妖怪の手に渡ると厄介なんでね。色々と手を尽くして
探しては居るのだが・・・」
 「神楽さん。何かお手伝いしましょうか。」
 ハクやリンが神楽を気ずかってそう告げたが、神楽は首を振って、
 「いや、いいよ。それよりも、千尋ちゃんの相手をしてやれよ。会うのは、久しぶ
りなんだろ?手伝って欲しいときは呼ぶからさ。それと、明日は二人とも学校だ
から、あんまり遅くならない様にな。」
  そう言うと、神楽は出口に歩いて行った。その背中に武男が声をかけた。
 「神楽、気お付けろよ。何だか嫌な予感がする。」
 「解ってますって。詳しい事はメールで知らせるよ。」
 そう言うと、神楽は店から出ていった。

 その日の夜ネットワークしろがねのメンバー全員に、神楽からメールが届い
た。
 『鬼面を封じていた面塚は、何者かによって潰されていた。何者かが人払いの
結界を破って塚を破壊した所を見ると壊したのは、間違い無く妖怪だ。今回の事
件は、何か裏がありそうだ。なお、この事は、私達だけでは手に余るので日本最
大のネットワーク「バロウズ」に調査依頼をしので、誰がやったのか解るだろう。
 それと、これは私の憶測だが見た感じだと結界を破壊した奴は、相当の手だれ
だと思う。厄介な事にならなければ良いのだけど・・・
 まぁ、とにかく皆、注意しておく様に。』







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