第五話

 「やっと終わった。」
 千尋は、大きく伸びをしてからそういった。学校に行っている時は、なかなか時
間が経たない。そのくせ休みの日は、アッという間に時間が経ってしまうのだか
ら。
 カバンにノートや教科書を押し込むと、友人達に別れの挨拶をすると家路につ
いた。
 それにしても、昨日は楽しかった。神楽さんが店をでて行くと、ハクとリンさんと
一緒に、最近の流行の映画を見た後、一緒に食事したり買い物をしたりと楽しい
時間をすごす事が出来た。ただ、始めハクが少し不機嫌みたいだったけど・・・ど
うしてだろう?ハクは、別の映画を見たかったのかな?それとも、食事が合わな
かったのかなぁ?
 それに対して、リンさんは終始御機嫌で、時折ハクの方を見ては、何やらニヤ
ニヤ笑っていた。まぁ、とにかく喜んでもらえて良かった。
 そんな事を考えてる内に、電車の駅に付いた。
 「ちょっとスイマセン。荻野千尋さんでしょうか?」
 突然、後ろから声を掛けられたので、千尋は振り返った。其処には、温和な笑
みを浮かべた中年男性がいた。嫌な感じはしない。人のよさそうな男であったの
で、千尋は、そうですけどと応えると、男はさらに尋ねてきた。
 「私は、宇治田と言います。鬼島神楽と言う女性ご存知ですよね。ちょっと彼女
の事について聞きたい事が有るのですが、少し時間を貰えませんか?」
 千尋は戸惑った。この男は一体何者なのだろうか?嫌な感じがしないので警戒
してなかったけどまさか警察官?だとしたら断ったりしたら怪しまれるかも・・・千
尋は、少し迷ったあと、「はい、いいですよ」と、ためらいがちに応えた。

 滋賀県の米原町のあるマンションの一室で大柄な女性、鬼島神楽は、仕事の
真っ最中だった。
 フリーライタの仕事をしている神楽は、自宅の仕事部屋でパソコンを使って原
稿を書いていた。彼女はいくつかの雑誌で犯罪ルポの執筆やオカルト関係の記
事を手がけている。もっとも、民俗学や都市伝説、宗教などの確かな知識のお
かげで、後者の仕事の方が圧倒的に多かった。
 神楽は、誤字、脱字が無い事を確認すると、一息入れようと仕事部屋から出よ
うとしたところ、パソコンの横に置いてあった電話の子機が鳴った。
 「はい。鬼島ですが・・・・・・荻野さん。お久しぶりです・・・・・・えっ千尋ちゃんで
すか、いいえ、来てませんけど・・・・・・携帯にも出ない・・・・・・・・・・・・解りまし
た。何か分かったら連絡します。」
 電話を切った神楽は如何したものかと考え込もうとしたら、今度は神楽の携帯
が鳴った。慌てて出るとシンシアからだった。
 「神楽か!?急いでしろがねに来てくれ!!千尋ちゃんが大変なんだ!!詳し
い事は此方で話す!!」
 「大声で喚くな!!耳がおかしくなる!!出来るだけ急ぐが四十分ぐらいは掛
かるぞ!」
 「馬鹿!!そんなに待てるか!!今にもぶち切れそうな奴が居るってのに!!
暴走し出したら私達じゃ手がつけられん!!とにかく急いでくれ!!」
 神楽は少しの沈黙のあと、十分で行くと告げると着替えを持ってマンションを飛
び出した。

 「千尋ちゃんが如何したんだって!!」
 居酒屋しろがねに着いた神楽は、店に入るや否やそう叫んだ。店の中には、
メンバー全員が居た。シンシアが、無言で1枚の紙切れを神楽に渡した。其処に
は、小汚い字で、
『神楽へ、荻野千尋とか言う娘を預かっている。この娘を取り戻したければ、九
時に宝ヶ池までこい。  鬼面』
と、書いてあった。
 「・・・・・・大体の事は解ったが・・・・・・この文面どこもひねってないな。」
 「あのですね。そう言う問題では無くて、何で千尋が巻き込まれなけれなけれ
ばならないんです?」
 と、ハクが言った。その言葉には何の感情もこもっていない。見れば、顔にも表
情といったものが無くなっている。彼が激怒したときの特徴だった。
 「解らん。たぶん、私の親しい奴が居ないかと、色々と調べまわってたのだろ
う。まぁ、とにかく宝ヶ池まで行って見るしかないよ。これだけは確かなんだから。
それにしても・・・・・・」
 神楽は、溜息をついてから再び話し出した。
 「鬼面の奴、か何にも変わってねぇな。この文章、欠陥だらけ、馬鹿丸出しだ
よ。」
 え?と、一同は顔を見合わせると、どう言う事ですか?と尋ねた。
 「それは、宝池への行く道中で教えてやるよ。武男さん。車、借りますけどい
いですか?。」
 武男は、良いぞ。と言って神楽に車の鍵を投げ渡した。






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