第六話

 九時二十分、神楽、ハク、リン、作助は見たところ温厚そうな中年男性と向か
い合って立っていた。どうやらこの男が鬼面と言う奴らしい。ちなみに、神楽達、
四人は少々息が荒くなっていた。
 「遅いな。オレは、九時にこいと書いたはずだが。それに、なんだそいつら
は?」
 「アホかオノレは!!宝ヶ池の何処かちゃんと書きやがれ!!宝ヶ池と言った
て結構広いんだぞ!!おかげで散々探し回ったじゃねぇか!!それと!!」
 神楽は、そう怒鳴ってから例の紙切れをヒラヒラさせて、他の三人を怪訝な顔
で見ている男に、
 「文章には、一人でこいなどとは書いてないぞ。」
と、告げた。相手は、シマッタと呟いた。そして、その声は四人にシッカリと聞こ
えた。リンとハク、作助は、本気で相手の事をアホだと思った。しかし、相手が
アホだろうが馬鹿だろうが、千尋が人質に取っている奴だ。慎重にならざるを
得ない。
 「そんな事より千尋は無事なんでしょうね。」
 ハクが千尋の安否を尋ねた。声に感情が篭ってない。切れる一歩手前だ。
 「ハク!!私が話すからお前は黙っていろと車の中でいったはずだろ!!」
 ハクは、怒鳴った神楽を睨みつけたが引き下がった。
 「鬼面よ。この男が言った通り千尋って子は、無事なんだろうな。」
 無事だよと、言って鬼面がパチンと指を鳴らすと、傍らに千尋の姿が現れた。
小さい結界を張って四人からには見えない様にしていたのだ。千尋は後ろ手に
縛られ口には猿轡をされていた。何か言っているようだが、猿轡のせいでモゴ
モゴとしか聞こえない。
 「ふむ。無事な様だな。取り合えずその子・・・・・・」
 鬼面は、神楽が言い終わらない内に千尋を無理やり立ちあがらせると、神楽
の方に突き飛ばした。当然、ハクが慌てて抱きとめる。予想外の行動に、今度
は神楽達が怪訝な顔をする番だった。
 「訳が解らんと言った顔だな。オレは、神楽お前をぶちのめせればそれでいい
んだその娘をさらったのは、お前をおびき寄せるためで、オレにとっては人質な
ど、どうでもいいのさ。」
 「アホかお前。どう考えたって多勢に無勢だぞ。」
 「ふん。それなりに準備をしておいたさ。これで貴様らを切り刻んでくれる
わ!!」
 鬼面は、懐から小刀を取り出すと引きぬいた。それと同時に本来の姿に戻る。
体が骨格ごと二回り以上も大きくなった。其処には隆々筋肉に赤黒い肌、顔に
はこれまた赤黒い色をした鬼の面をつけていた。身長は三メートルはある。そし
て、体には鬼の面で作られた鎧をまとっていた。
 「水神刀!!どうしてお前がそれを!!」
 神楽は、飛び下がりながら稲妻を放った。しかし、稲妻は鬼面が振るった御神
刀の力によってあらぬ方向へ曲げられてしまった。
 「千尋。危ないからむこうへ行ってなさい。」
 戦いになったためハクは千尋にそう言って下がらせた。千尋は、ハク達に、気
おつけてね。と声かけると安全な所まで引き下がった。それを見届けたハクは、
服を引き裂いて本来の姿、体長八メートルぐらいの白い龍の姿になる。それと同
時に神楽も元の姿になた。その姿は、巫女さんが着るような白い着物をまとった
身長二メートル三十センチもある女性の鬼の姿だった。リンと作助もそれぞれ本
来の姿になる。リンは、三本の尾を持つ白い狐の姿に作助は黒装束の忍者の
姿になった。
 「ふん。数そろえた所でどうなるってもんじゃないぞ。」
 「「やかましい!!テメエだって御神刀力を借りてんだろ!!」」
 神楽とリンが同時に鬼面に叫んだ。神楽とリンは、同時に叫んだ事を互いに苦
笑する。と、その瞬間風の刃が御神刀から多数放たれる。隙を造ってしまった二
人はかわしきれずに数発食らった。神楽の着物がリンの白い毛皮が見る見る内
に赤く染まっていった。
 神楽は再び飛び下がりながら稲妻をリンは火の玉を放った。ハクは稲妻を作
助は手裏剣で鬼面を攻撃する。しかし、鬼面は手裏剣を叩き落し、稲妻や火の
玉は護神刀の力によって弾き返され無力化する。逆に鬼面が放った風の刃や
稲妻は四人にダメージをあたえ続けられ、四人とも徐々に出血が酷くなってい
った。このままでは、御神刀で真っ二つにされるのは時間の問題だ。作助は、
ぼやいた。
 「畜生!!一体どうなっているんだ!!あの野郎やたらと強くないか?!」
 『恐らく御神刀が、神通力を増幅してるんだろう。』
 本来の姿になると喋れなくなるハクが作助に念話で話し掛けた。その瞬間、ハ
クと作助に隙が出来た。ハクは殴り飛ばされ作助は稲妻を食らった。ハクは後
方に十メートルはすっ飛んだ。作助は直撃こそ免れたもののかなりのダメージを
食らった。
 「ハク!!」
 離れた所から戦いの様子を見ていた千尋は、思わず叫んだ。そして、ただ見て
いる事しか出来ない自分の不甲斐なさに、イライラしていた。

 イライラしているのは、千尋だけではなかった。ドラキュリーナのシンシアと鎌
鼬の風治も同じだった。二人は、神楽に何かあった場わい、つまり鬼面の伏兵
が居たときに備えて待機してる様に言われたのだ。シンシアは、体を霧状に変
化させて池の上に漂い、風治は本来の姿となって近くにある木の上に隠れてい
る。
 『シンシアさん、どうします?このままでは・・・』
風治が、言葉を風に乗せてシンシアに、話しかけてきた。シンシアは、霧状のま
ま、風治の所まで行って応えた。
 『神楽に言われただろ。鬼面の封印を誰が壊したのか解ってないし、今回の
事は何か裏が有るようだから、不測の事体に備えて伏兵として待機してる様
にと。』
と、シンシアは言ったがその声にはかなりの苛立ちがこもっていた。
 『しかしですねぇ。今がその不測の事体なんじゃ無いですか?鬼面て奴が御神
刀を持ってなかったら、神楽さん一人でもちょろい相手だったんですから・・・』
その言葉にシンシアはウームと唸って考え込み出した。

 「うわははははは!!どうしたどうした神楽!!貴様の力はそんなもの
か!!」
 「御神刀の力で、力を増幅させてる奴が言うな!!」
口から火炎攻撃を御神刀で無力化された神楽はそう怒鳴った。神楽は、焦っ
ていた。此方の攻撃が鬼面にあたっていない訳では無い。当ってはいるのだが
大したダメージを与えられない。自分やハクの稲妻、リンの火の玉は当っても御
神刀によって防がれるか威力が半減してしまう。作助の手裏剣は鬼面に体に傷
をつけるが、大した傷ではない。かと言って直接攻撃をしようとすると御神刀の
斬撃くる。御神刀で切られた傷は治りにくく何時もだったら直ぐに血が止まるの
になかなか止まらないし力が抜けて行くのだ。その反面、鬼面の傷は御神刀の
力で瞬く間に治ってしまう。畜生!!こんな不公平な話しってあるかい!!
 「そろそろお遊びはここまでにして、終わりにしてやろう。」
 今まで遊んでたのか?ふざけやがって!!ハク、神楽、リン、作助、離れた所
で戦いを見ていた千尋も同じ事を考えていた。
 鬼面が、御神刀を振りかざして突進した次の瞬間、鬼面の足元から凄まじい
つむじ風起こった。鬼面が、何事か!?と慌てた次の瞬間、銃声が轟いて、鬼
面の御神刀を持っていた手の親指を吹き飛ばした。衝撃によって御神刀は、弾
け飛び中を舞った。そして、それは偶然にも隠れて戦いを見守っていた千尋の
目の前に落ちた。





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