第七話

 シンシアと風治は、色々と思案し合った結果、このまま手をこまねいて見てるよりも
何かした方が良いと言った結論に達した訳だった。
 風治が鬼面の足元からつむじ風を起こして、相手が怯んだ瞬間、シンシアは鬼面の
背後に霧の状態から一瞬にして実体化すると、持っていた銃(デザートイーグル)で鬼
面の手、親指を吹き飛ばして、持っていた御神刀を弾き飛ばしたのだが、どうしたこと
か弾き飛ばされた御神刀は、千尋の目の前、手をのばせば手が届く所に落ちたのだ
った。

 シンシアと風治を除いた者達は、数瞬の間一体何が起こったのか解らなかった。
が、一番速く我に返ったのは、よりにもよって鬼面だった。鬼面は、御神刀を取り戻す
べく千尋に向かって行く。
 「小娘!!その刀を此方にわたせ!!」
 「千尋!!その刀を池に投げ捨てろ!!」
 我に返った神楽達の大声が響く。同時に全員が鬼面を追いかけた。鬼面は、貴様ら
はこれでも食らえ!!と叫ぶと、鬼の面で出来た鎧の鬼の面が、外れて神楽達に襲
いかかってきた。神楽、ハク、リン、作助達の体に噛み付き牙を深々と突き立て食い
千切ろうとする。動きが鈍り、鬼面との距離が開いていく。
 「畜生め!!千尋はやく逃げろ!!」
 リンが叫ぶ。ハクも同じ気持ちであったが、龍の姿になると喋れないのが恨めしい。
で、千尋の方は、拾い上げた御神刀を握り締めたまま、オロオロとするばかり。其処
に鬼面がたどり着いて、その刀をわたせ!!と叫んで左手を千尋の頭めがけて振り
落とした。
 「「「千尋!!!!」」」
 その場に居た全員が絶望的な悲鳴を上げ、リンは千尋の頭が吹き飛ぶのを見まい
と目を硬く閉じ、ハクは逆に目を大きく見開いた。全員が千尋の頭が砕かれるのをの
を想像していた・・・・・・
 
 が!!吹き飛んだのは、鬼面の手だった。イヤ、正しくは切り落とされたのだ。鬼面
は、何が起こったのか解らず切り落とされた腕を見つめていた。神楽達も思考力が一
気に落ちて呆然としている。もっとも、一番訳が解らなくなっていたのは、千尋の方で、
微かに青白く光る御神刀を呆然と見つめていた。
 千尋は、自分の頭めがけて鬼面の腕が振り落とされたとき、手にしていた御神刀で
鬼面の腕に切り付けたのだ。完全に無意識の行動で、何が起こったのか理解できな
かった。
 突然、御神刀が、一際強く光った。そして、その光は千尋の右目に吸い込まれる様
に消えていった。
 「オ、オ、オノレ!!小娘が!!」
 ようやく我に返った鬼面はそう叫んで、反対側の手で掴みかかった。千尋は慌てて
飛び下がった。十メートル近をひとっとびで!!千尋は何が何だか訳が解らないので
着地に失敗して派手に転んだ。
 「この小娘が!!」
 怒り狂った鬼面が千尋を追いかけようとしたところ、足元をすくわれて派手に倒れ
た。何事かと振りかえると、神楽、リン、ハク、作助、シンシア、風治がこれまた怒り
狂った目で鬼面を睨みつけている。鬼面が放った鬼の面は、全部跡形も無く壊され
て地面に転がっている・・・・・・
 「さて、どうしてくれようかねぇ?」
 「まさか、許してくれ。などと、言いはしないでしょう。」
 『勿論、私は最初から許す気なんて有りませんが』
 「合ったりめぇよ。神さんが許しても俺は、許す気は無いからな。」
 「みんな、同じ意見の様だな。」
 全員が、頷くとジロリと鬼面を睨んだ。そして、鬼面は自分の最後を悟った。

 手当てと着替えを終わった神楽、リン、ハク、風治は物陰から出てきた。この四人
は、人間の姿から本来の姿に戻ると着ている服を破いてしまうので、本来の姿に戻る
可能性が有るときは、着替えをそれぞれ持って来ていなければならないのだった。
 「ヤレヤレ、これじゃ着物を買う金が幾ら合ってもたりやしない。」
 リンのボヤキを聞いて一同は顔見合わせて苦笑する。
 「千尋、これから如何するか考えはまとまったか?」
 神楽が酷く悩んでいる様子の千尋に尋ねた。
 「神楽さん。もう少し千尋に時間を与えてはくれませんか?」
 ハクが神楽に意見するが、神楽は首を振って応えた。
 「駄目だ。その御神刀は確かに千尋と波長が合って、千尋に妖怪と戦う力を与えた。
しかし、それは元々他のネットワークの物なんだ。先ほど其処のネットーワクに、この
事を伝えたら、その千尋と言う人間が御神刀の力を正しく使う人間であれば、その人
間に渡すと言っては来たさ。しかし、使う気無いのなら直ぐに返した方がいい。その御
神刀は、人間に力を与えるだけでなく妖怪の力を増幅させる力も持っているんだ。先
ほど倒した鬼面の様にな。それと!!横から口出しをするなよ!!これは、千尋が決
めることなんだからな!!」
 神楽はこれ以上無いほどキッパリと言った。流石のハクも黙ってしまった。千尋は、
黙ってしまったハクと複雑な表情を浮かべているリンに向き直ると言った。
 「聞いてハク、リンさん。私ねズット考えてたの。何故、妖怪達が生まれるのかと言っ
たことを考えていたよ。神楽さん達が言うには、妖怪は人間の強い思いから生まれて
くるって言ってた。闇に対する恐怖、自然に対する畏怖、伝説や言い伝え、人ならざる
存在を信じる想いが妖怪を生むんだと。私のような人間の心が妖怪を生むんだと・・・
だとしたら・・・本当は、人間が解決しなければならない事を神楽さんやハク、リンさん
らが、人間の変わりに手を汚しているんだよね・・・私、ハクやリンさん達だけに、手
を汚させて自分だけ知らない顔して、清らかなふりをしてるなて・・・・・・そのなのイヤ
だ。そんなの卑怯だ・・・・・・」
 最後の辺りでは、千尋は泣き出す寸前で殆ど聞き取れなかった。
 「解った解ったよ。千尋。」
 ハクは、千尋の背中をポンポンと優しく叩気ながらそう言った。そんなやり取りを見て
いたシンシアや作助、風治達は、良い娘じゃないか、と頷き合った。
 「決まった様だな・・・」
 神楽は、そう言うと千尋をネットワーク「しろがね」のメンバーとして、正式に迎えるべ
く千尋に一礼すると、言霊を言い放った。

   「ようこそ・・・月夜の世界へ・・・」








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