第弐話


 京都の中心分から離れた所にある家に・・・・いや、大きさからして屋敷といった方がい
いだろう。その屋敷にその男達はいた。ニ人全員がグレーの作業服に覆面をかぶった姿
をしていた。そいつらは、この家の主の喉元に刃物を突き付け、屋敷の奥の部屋に置い
てある金庫の鍵を開けさせていた。残りの二人は別の部屋で、主の家内を縛り上げて逃
げられない様に見張っていた。
 「早くしろ!!モタモタしてるんじゃない!!」
刃物を突きつけた強盗の一人が苛立った声を上げた。
 「分かってるから、家内だけには乱暴だけはしないでくれ・・・」
 屋敷の主、竹内正造はそう言うと金庫の鍵を開ける作業を再開した。竹内正造は、こ
の地元では古美術品や不動産などを扱う資産家であり、かなりの財産を持っていること
で有名だった。四人組の強盗は、それを狙って押し入ってきたのだ。
 (畜生!!何故このような事に!!)
 竹内正造は、心の中で罵っていた。この家には、防犯システムが装備してある筈なの
に、それが何故か作動しないのだ。
 それもその筈だった。実はこの強盗達は、1ヶ月に渡って警報システムの解除のしかた
や、侵入経路、逃走経路などの準備をしてい入念に計画を練っていたのだった。更に、
外にはもう一人の強盗の仲間が逃走用の車で待機していた。今の所、計画どうりに事は
進んでいた。
 そうこうしている内に金庫の鍵が開いた。強盗は竹内正造に「下がってろ!!妙な真
似をするとタダじゃおかないからな!!」と言うと、金庫の中身―札束を用意していた袋
に詰めた。そして、立ち去ろうとして部屋の奥に妙な物が有る事に気がついた。
 それは、一振りの刀だった。
黒ろう塗りの鞘に、黒糸の柄と下緒。現代刀らしいやや長めの刀身。しかし、それは鞘や
柄に御札らしきものがベタベタ貼られ、これまた御札らしき物がベタベタと貼られたガラス
ケースの中にあった。強盗の一人は、何かに取りつかれたかのように、その刀の所へ行
って、ガラスケースから取り出そうとした。
 「そ・・・それに触ってはいかん!!」
 竹中正造は御札を剥がして、ガラスケースの中から刀を取り出そうとしている強盗に向
かって叫んだ。
 「うるさい!!静かにしていろ!!」
もう一人の強盗が大声を出した竹中を蹴飛ばしながら叫んだ。
 「何をやっているんだ?早くずらかろうぜ。」
 竹中を蹴飛ばした強盗が刀を取り出した仲間に、声をかけながら近づいた。と、突然、
ヒュンと音がしたかと思うと、声をかけた強盗の両腕が肘の辺りから切り落とされた。始
めは何が起こったのか理解できなかったが、理解した瞬間強盗は物凄い悲鳴を上げた。
しかし、それも直ぐに止んだ。何故なら首が切り落とされたからだ。
ゴロゴロと転がる首を尻目に竹中は、全力で逃げ出した。
(お終いだ!!何もかもお終いだ!!)
 後ろの方では刀を持った強盗の一人が、覆面を脱ぎ捨て、竹中の方に歩いてきた。そ
の顔は嬉しそうに、本当に嬉しそうにニタニタと笑っていた。
 騒ぎを聞きつけて強盗の仲間が、「何があった」と、廊下に飛び出した。刀が一閃したと
思うと、飛び出した強盗は、声を上げる事すら出来ずに、真っ二つになって崩れ落ちてい
った。
 それを見た竹中は、せめて家内だけでも脱出させようと思っていたのだが、それがか
なわぬ事だと思い知った。何故なら、刀をもった強盗は、愉快そうにゲラゲラと笑いなが
ら、今にも何の躊躇う事無く刀を振り落とそうとしていたのだから・・・



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