第参話


 京都の山科区にある、JR山科駅から少し離れた住宅街の中の細い路地の奥、妖怪達
の溜まり場、「居酒屋しろがね」に、メンバー、店の主の武男と神楽、作助、リンとハクそ
して千尋が居た。

 「本当に映ってないの?」
千尋は、デジタルビデオカメラを持っているハクに尋ねた。
 「本当に全然映ってないよ。一体どう言う仕組みになってんだろう?」
 「分かってはいてても不気味だな。こりゃ」
リンは、ノート型パソコンの液晶画面をみて、複雑といった感じでそう言った。デジタルカ
メラとノート型パソコンは、ケーブルで繋がっていてデジタルカメラで映している映像を画
面に映していた。しかし、何故かその画面には千尋の姿は映っておらず、その背後の壁
が、映し出されていた。
 「何故かそうなってしまうんだよな。まぁ、御神刀を使ったときだけ見たいだけど」
作助が答えた。

 しろがねでは、本格的に千尋が御神刀を使っているときの能力を調べている真っ最中
であった。今までに分かった事は、御神刀の能力を解放すと、外見は殆ど変わらないが
瞳の部分が赤くなる事、体力や知覚が常人の七倍ぐらいに増幅される事などであった。
又、攻撃能力は衝撃波による斬撃と雷撃による攻撃であった。そして、御神刀を使って
いるときは、何故かカメラ、デジタル式やフイルム式に限らず、映像機器に映らない事で
あった。もっとも、映像機器に映らないのは千尋だけではなく、妖怪全般に言える事であ
ったが。
 「まぁ、この事はともかくとして、何故、我々妖怪はこう言った映像機器に映らないので
しょうか?」
ハクは、神楽に尋ねた。
 「いや、私に聞かれても・・・ウーム、1つの説としては、妖怪は現代科学とは根本的に
相容れない存在だからと思うのだけど・・・・・・説明になってないなこれは・・・」
 「まあまあ、いいじゃないのハク様よ。これで千尋が御神刀を使っている時の写真を撮
られることは無いんだし、第一コレのおかげでオレ達の正体が明るみに出なくて済んで
いる訳だしさ!!」
 有る意味、楽天的なリンの物言いに、ハクは気楽な奴と溜息をついた。
しかし、妖怪も写真に映らないわけではない。ちゃんと映る方法があるのだ。それは、そ
う言った状況になったとき、「写真に映りたい」と強く念じれば、妖怪でも写真やビデオに
映ることが出来るのだそうだ。これにもチョットしたコツがあり、コツをつかむとそれほど強
く念じなくても映るようになるのだ。
ちなみに、妖怪は映像機器だけでなく、赤外線センサー方式の自動ドアのセンサーまで
通用しなくなるので、ハクもリンもコツをつかむまで、商店とかの自働ドアに、幾度と無く
顔をぶつけたり、ドアに挟まれたりして結構、恥をかいていた。もっとも、今ではハクもリ
ンも長期の練習の結果コツをつかんでいるのでそんな事は無くなったが
 「へー、物を持つとチョットの間だけ映ってて直ぐに消えるんだ。それに身に着けた服ま
で映らなくなるのか」
 「リン、そうじゃないと困るぞ。不意打ちで撮られたときに、服だけ映ってるというのは、
ハッキリ言って不気味だ」
 「神楽さん。部分的に映るようにって出来ないのですか?」
 「練習すれば出来るかもしれないけど・・・してどうするんだ?」
何時の間にか、遊びになって騒いでいるのを眺めていた店の主、武男が口を開いた。
 「楽しんでいる最中済まないが、ハクに作助の二人は、そろそろアルバイトに行く時間
なのでは?」
 その言葉に二人は店の時計に見やった。
 「ああ、もうコンな時間か・・・そろそろ行かないと遅刻だ」
ハクの言葉に作助は頷いた。二人は今、ある倉庫の整理と荷物の搬出のなどのアルバ
イトをしていた。結構、キツイ仕事なのだが人間の姿をしていても、普通の人の2〜3倍
の力を持つ二人にとっては対した事は無かった。それに、給料も結構良かったりする。
 「じゃあ、オレそろそろ仕事なんで、其処まで一緒に行こう。千尋も来るか?」
千尋は大き目のウエストポーチに御神刀をしまいながら、「行く」と三人の側に近寄った。
 「私も行くよ。仕事の事もあるしね。」
神楽は、ノートパソコンやデジタルカメラをを鞄に仕舞うと立ちあがった。



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