第壱話〜プロローグ〜


 その日は、仄かに青白く輝く月が美しい夜だった。白銀に輝く鎧をまとい、白く長い髪を
なびかせ二本の角を生やした妖怪が、一体の妖怪を、先端に生首を戴いた赤黒い大蛇
の姿をした妖怪を小高い丘に、追い詰めていくのを歳若い娘は見つめていた。
「何故だ!何故、人間の味方をするのだ!!お前はそんな存在じゃ無かった筈だ!!」
そいつは、口から赤黒く濁った血を口から吐きながら喚いた。それを聞いた白銀の鎧を
纏った妖怪は、軽く眉をひそめて言った。
 「長く生きてれば考えが変わったりする事だって有るさ。人間と同じ様にな・・・」
 「馬鹿な!!一番人間を虫けらの様に思っていたのはお前が!!何故だ!!何故、
人間の肩を持つのだ!!」
 その妖怪は喚きながら長い尾で攻撃をしかけた。
 「お前には分からないさ・・・・・・自分から変わろうとしない限り・・・永遠にな・・・」
 鎧を纏った妖怪はそう言って相手の攻撃を受けた。その攻撃は鎧の表面にホンの僅か
な傷を着けただけだった。
 そうなのだ。この妖怪に幾ら攻撃を仕掛けても自分の攻撃は、相手に僅かな傷しか負
わせられないのだ。しかし、相手の攻撃は凄じく、食らうたびに全身がバラパラに成るの
ではないかと思うほどだった。
 鎧を纏った妖怪は引き戻そうとした尻尾を引っ掴むと、物凄い力で相手を振り回して、
地面に叩きつけた。そして、先端に生首を戴いた赤黒い大蛇の姿をした妖怪に口からは
火炎を角からは稲妻を放った。

 「ギイヤアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


この世の物とは思えぬ物凄い絶叫をそいつは上げた。
 「おのれええええ!!口惜しやああああ!!」
 全身を炎に焼かれながらそいつは、喚き、罵り、呻き、そして呪った。
 「必ず!!必ず!!冥界の淵より戻りて、滅ぼしてくれる!!必ず!! 必ずっ!!」
そいつは、復讐の言葉を上げながら燃えていく。首が力を失い灰とかして崩れていった。
「何時でも来やがれ・・・その度に滅ぼしてやる。お前が考えを改めぬ限り」
白銀の鎧を纏ったその妖怪は風に乗って消えていくのを見ながらそう呟いた。
 今、この国では各地で力をつけた大名達による争いが後を絶えない。各地で行われる
戦によって、死と荒廃を呼び込もうとしたいた。人の姿になって各地を旅してきたその妖
怪は、道端に転がる惨たらしい屍を数え切れないほど見て来た。
 (大地に吸い込まれた血が・・・執念や怨念が・・・こう言った化け物を生み出すのだ)
 「鬼神様・・・」
 物陰に隠れて戦いの様子を見守っていた年若い娘が顔を出して、その「鬼神」と呼んだ
妖怪の前にやって来た。先程の大蛇の妖怪に住んでいた村を荒らされて、自分の両親
や兄弟を殺され、将来を誓い合った村の男を殺され、その他の村人を殺された村の娘だ
った。
 その娘が泣きながらその妖怪に差し出したのは、僅か一握りの米。たったそれだけの
報酬でその妖怪は戦ったのだ。
 「終わったよ」
 その妖怪は微笑んだが、娘は着物の裾を破くと
 「鬼神様。怪我をなされてます。」
そういって、その妖怪の腕の傷を手当てした。
(ほっといても直ぐに治るのだけどな)
 その妖怪は内心苦笑した。
 「さあ、村に帰ろう。村の人達が待っているよ」
手当てを終えた娘にそう言うと、「鬼神様!その様な事を成されては困ります!!」と言
う娘の抗議も聞かずに肩に担ぎ上げると、村の方へとその妖怪は歩き出していた。



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