第九話


 足音が襖の前で止まるや否や、襖が勢いよく開けられると、其処に
は目を真っ赤に泣きはらした千尋の姿が有った。
 千尋は、今の今まで泣いていたそうだ。綾香の護衛や侍女、ハク、フ
ナ、るかまでもが一緒になってリンの傷は、綾香様が治したのだから、
命に別状は無いのだからと、必死になだめていたのだが、「リンさんが
死んでしまう。リンさんが死んだら自分の責任だ。」と、泣いたいたそう
だ。で、リンが気が付いた事を聞くや否やリンと綾香がいる客室へ矢の
様に走っていったのである。他の従業員を撥ね飛ばしながら・・・・
「リッ・・・リッリンさん、助かったんだ・・・良かった・・・」
 千尋は、かろうじてそう言うと、リンの元へと駆け寄った。次の瞬間、
リンは千尋の顔を力一杯引っ叩いた。パーンと、物凄い音がして千尋
は、畳に倒れた。千尋は、何が起こったのか解らず叩かれた頬を押さ
えて呆然としていた。リンは、そんな千尋の胸倉を掴むと大声で怒鳴り
つけた。
「この大馬鹿野郎が!!勝手な行動とりやがって!!何故、他の者達
に声を掛けてから外に出なかった!!運良く助かったから良かったよ
うなものの下手すれば死んでいたんだぞ!!お前が死んだらオレや
ハクは、一体どうしたら良いんだ!!この先ずっとお前が死なせてしま
った事を後悔しながら生きていけってのか?冗談じゃねぇぞ!!特に
ハクの奴は、お前の事がなぁ・・・・・・・・・・・」
突然、リンはズルズルと前のめりに崩れるように倒れていった。
「ちょっと!!リンさん。リンさん!!」
 千尋は、慌ててリンを抱き起こして見ると、リンは気絶していた。その
様子を見ていた綾香は、呆れかえって溜息混じりに呟いた。
「だから無理するな言うとるのに・・・三分の一近く血を失っとるのに、
何を考えとるんやこの娘は・・・血が抜けて少しはマシになったと思うた
が、気の短いのと血液の量とは余り関係ないようやの・・・・」
 ブツブツと言いながら念力を使ってリンを布団に寝かしつけると、よう
やく我に返った千尋に向き治ると、
「これは、痛そうやのう。口の端も切れとるし・・・手加減と言うものを知
らんのかこの娘は、まぁ、拳で殴らなかっただけマシな方か・・・どれ治
してやろう。」
そう言いながら、叩かれた頬に手を伸ばす。しかし、千尋はその手を遮
ると、かぶりを振った。
「ほう、断るか。良い心がけじゃ、その痛みリンの心の痛みの一部と思
いしるが良い」
そう言ってニヤリと笑うと、戸口でどうした物かと立ち尽くしているハク
や、従業員や他の神々一同に向かって、
「ささ、リンはもう一眠りするゆえ、ちと皆、静かに立ち去ってはくれまい
か」
と、全員を部屋から追い出して後ろ手に襖を閉めて、防音の為に結界
を張った。
「さて、皆の衆、どうしますかな?このまま立ち去るのも良し、それとも・・・」
 綾香は、ニヤニヤ笑いながらクイッと酒を飲む仕草をした・・・



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