第七話


 リンは、裏路地から大道りへ飛び出した瞬間、腹部の傷が耳障りな
音を立てて開いたのが解った。そこから勢いよく血が噴出すのもよく解
った。しかし、そんな事は今のリンにはどうでもいい事だ!今の自分に
とっては、大した事ではない!!地面スレスレを風のように、全力で突
っ走った。
 イズナは、勝利を確信していたのか、スキだらけでリンがすぐ近く来
るまで、全く気が付かずにいた。その為か、左足を膝の辺りからあっさ
りと切断されてしまった。左足を切断されたイズナは、バランスを崩して
倒れそうになった体を庇おうと、反射的に千尋の首を締め上げていた
左腕を放して地面に手をつこうとした。しまった!!と、思ったが後の
祭である。
 イズナノ左足を切断したリンは、そのまま大道りの反対側まで突っ走
る、と店の柱を左手で掴んで殆ど速度を落とすことなく方向転換して、
再びイズナに切り掛って行った。転倒したばかりのイズナは、体制を整
える事が、直ぐに出来ず。反撃も防御もままならならず、気が付くとリン
の持つ太刀の刃が目の前まで迫っていた。イズナは大声で叫んだ。
「おのれ!!女狐がああああああああああああああああああああああ
ああああああああ!!」
「でやああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああ!!!!」
 リンは、裂帛した気合の声を上げると渾身の力をこめて太刀を振り落
としてイズナの首を撥ね飛ばした。
 撥ね飛ばされたイズナノ首は、地面に落ちると再び禁術の呪文を唱
え出した。この禁術は、今の状態でもある程度の効力があるのだ。首
を切り落としても死なないとは、禁呪恐るべしと行ったところか・・・
 イズナは禁術を完成させようと、呪文を唱え続けた。完成さえすれば
首は、一瞬の内に繋がり、全身の火傷も直ぐに完治する。そうすれば、
自分の勝利だ!!
イズナは呪文を唱え続けたが、頭を踏みつけられて中断した。「何奴」
と、何とか相手を見た。その人物は、白い水干を着ている男・・・ハクだ
った。
 ハクは、綾香の神力によってイズナの結界を消滅するや否や、湯婆
婆の魔法によってここまで瞬間移動して来たのである。ハクは、怒りの
余り表情と言う物を完全に失っていた。そして、その声を聞くもの全て
の魂まで凍りつかせるような声で、たった一言、
「死ね・・・」
そう言うと、足に渾身の力をこめた。

 突然、開放された千尋は、咳き込みながら身を起こして何が起こった
のかと周を見渡して悲鳴を上げた。どくどくと腹部から血を流して倒れ
ているいるリンを見つけたからである。千尋は、慌ててリンの駆け寄る
とだきおこした。千尋は、流れ出る血を止めようと手で傷口を押さえる
が少しも出血は止まらなかった。
 イズナの頭を踏み潰したハクもその様子を見て慌てて駆け寄った。
「ハク!りんさん、血がでてる!血がいっぱい出てる!!リンさんが、
りんさんが死じゃうよう!誰か!誰かリンさんを助けて!!ハク、リンさ
んを助けて!!」
 あらん限りの声を上げて千尋は、ハクに訴えた。
「千尋、ここは私が見るから皆を読んできてくれ!早く!ぐずぐずする
な!!」
 ハクも慌てているのか、千尋に強い口調で叫んだ。千尋は頷くと、油
屋の方へと矢の様に走り出した。
「ハ・・・ハクか?ハクだな。千尋は・・・千尋は無事か?」
 辛うじて聞こえるような弱々しい声でリンは、ハクに話し掛けてきた。
「リン、気が付いたのか良かった。と・・・余り喋るな 出血がひどくなる
!!」
ハクは、リンに黙っているよう促すがそれでもリンは、なおもハクに千
尋の安否を尋ね続けた。
「ハク・・・お・・・教えてくれ・・・千尋は・・・無事なのか?頼む・・・教え
てくれ・・・」
「ああ!!千尋は、無事だ。お前のおかげで間に合った。だからもう喋
るな!!」
「そ・・・そうか・・・良かった・・・本当に良かった・・・」
リンは、そう呟くように言うと、安堵したのか微かに微笑むと、突然ガク
リと全身から力が抜けていった。



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