第八話

 「ぐるるるるる・・・・・」
 ハクは、非常に弱々しい声で話しかけた。リンは、自分はお邪魔虫だなと、思っ
ているが、体がだるい事この上もないのでじっとしている。
 「ハク・・・リンさん・・・私ね、二人に謝らなければならない事があるの・・・」
座敷に上がった千尋は、二人に告げた。
 「あの時、私は御神刀をここに忘れて来たと言ったけど、そうじゃなくてわざとこ
こに置いていったのよ・・・」
 千尋は言った。怖かったのだと、自分は妖怪同士の戦いは、せいぜい悪い妖
怪を退治する程度だと思っていた。だが、そうではないと神楽に言われたのだそ
うだ。妖怪の同士の戦い、それは所詮殺し合いなのだと、其処とを言われて段々
と恐ろしくなり昨日、ここへ来た時にそっと置いていったのだそうだ。その事が、こ
のような事になろうとは・・・
 「私、ハクやリンさんに護ってもらってばっかり・・・もっと強くならなくちゃね・・・」
そう言うと千尋は、白い龍を抱きしめて泣いた。泣きつかれて眠ってしまうまで・・・

 あの三人を襲ってから六日間が過ぎた。いじん達は、コノ六日間、気が休まる時が
無かった。どうも後を付けられている気がして仕方が無いのである。イヤ、付けられて
いる。その証拠に微かだが、妖気が感じられるのだ。漠然とではあるが・・・
 しかも、二手に分かれようとすると、強い妖気や殺気が感じられ慌てて集まる。一休
みし様とすると、強い殺気や妖気を感じるのだ。いくら妖怪が、人間よりもタフであって
も、六日間も気を張り詰めていれば、如何にかなってしまう。実際、いじん達は精神的
にかなり参ってしまっていた・・・
 
 午後九時半、精神的にも肉体的にも疲労困ぱいになったいじん達は、JR京都京都駅と
西大路駅の間にある、梅小路公園に逃げ込んだ。
 いじん達は、人影の無い公園内をフラフラと歩いていると、公園のベンチに腰掛けて
携帯電話で何やら話している少女を見つけた。その少女は赤系統の靴とワンピースを
着て、誰かと携帯電話での会話に夢中になってるみたいだった。
        ・・・ぞろり・・・
 それを見たいじん達は、突然心の奥底から黒くてドロドロとした物が、競り上がって来
た。
         ・ ・ ・ぞろり・ ・ ・
 それは、いじん達の冷酷で残忍な醜い精神。そして、それはいじん達の理性を押し退
けて競り上がってくる。
 「何かおかしい・・・」
 と、解っていても疲労した精神は、本能を強迫観念を押さえ付けられなかった。いじん
達は、その少女に引き寄せられる様に接近していった。
 少女は突然、立ち上がると走り出した。いじん達も本来の姿になると、その少女を追い
かけた。少女よりもいじん達の方が僅かに走る速度が速かったく、徐々に距離が狭まって
きた。少女は、懸命に走りつづけ公園内の建物の角を曲がった。いじん達も後を追って角
を曲がった。
 「千尋ちゃん!囮役ご苦労!!」
 突然大きな声が響き渡った。いじん達は、その声に驚いて我に返って周りを見渡した。
そこには、神楽、黒金、シンシア、風治、ハクらの他に数十体に及ぶ様々な妖怪達がい
じん達を待ち構えていた
 「大丈夫か?千尋」
 ゼイゼイと荒い息をつく千尋にハクは優しく話しかけた。千尋は、何度も頷いた。
 「もう逃げ場は無いぜ・・・いじんども!!」
 本来の姿に戻っている神楽はそう怒鳴った。いじん達は、うろたえ一塊になって怯え
ていた。

 千尋が、しろがねにハクとリンに会わせてと訪れたその日から、神楽達は活動を開始し
ていた。いじんと言う邪悪な妖怪が出たことを京都中にあるネットワークに伝えて、協力
を頼んだ。又、作助の知り合いの忍者妖怪に協力を要請して、いじん達の追跡を頼んだ。
彼ら、忍者妖怪は完璧に気配や妖気を消して、対象物を追跡するのはお手の物であった
りする。その他にもシンシアが、少数の蝙蝠を放ちいじん達を空からも監視し続けたのだ。
そして、時折気配や殺気を放って、いじん達をここ梅小路公園に、追い詰めたのだ。
 そして、最後の仕上げとして千尋が囮となり、いじん達を誘導したと言う訳だ。先ほどの
携帯電話の会話の内容は、暗号化された会話でありいじん達罠に掛かった事を知らせる
ものだったりする。無論この囮役は、彼女自身が志願した。又、ハクもリンも特別反対しな
かった。ちなみに、この公園には人払いの結界を張ってあり人間は千尋以外誰もいない。
 「ハク、千尋ちゃんを頼む。妖術に巻き込まれん様にな。」
本来の姿、鎧武者姿の黒金武男がそう言うと、ハクは素早く白龍の姿になり、千尋を乗せ
て上空に上がった。そして、それを見届けると、静かだが冷酷に言い放った。
 「かかれ・・・」





     

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