第六話

 「三台の携帯電話が、同時に繋がらなくなる確率て、どのくらいだ?」
 普段の神楽だったら、「フーン、そんな事もあるんじゃないの?」と、聞き流して
居だろうが、前に銭婆聞かされた「ハクと千尋とメンバーの一人の命が危ない」
と、聞かされていた神楽は、たちまち青ざめた。
 (銭婆の言っていた事ってこの事なのか!!)
 「悪い予感がする。一応調べて見た方が良い。シンシア頼まれてくれるか?」
顔を青くして、うろたえている神楽を怪訝そうに見ていたシンシアは言う。
 「構わないけど・・・もうチョット時間が経ってからにしてくれないか?まだ太陽
が出ているんだし・・・」
 「今は昼と夜の間、逢魔が刻だから何とかなるよ。頼むよ」
解った何とかやって見るよと、シンシアは店を出ていった。武男は、作助や風治
に連絡を取るべく電話をかける。神楽は、その様子を見ると、頼みます。と言っ
て店を出ていった。

 「さてと・・・始めますかな」
 シンシアは、近くの建物の影で独り言を呟いて、精神を統一を行った。吸血鬼
としての能力を使う訳だか、まだ太陽が少し出ているので上手くいくか解らない
が、モノは試しだ。
 少しの間が有ったが、シンシアの体に変化が起きた。たちまちの内に、無数の
黒い蝙蝠になる。その数、百数十匹。この一匹一匹は、シンシアの目であり耳な
のだこうする事によって、一度に広いはいんを調べる事が出きる。それは、黄昏
時の空に飛び出すと散らばっていった。

 調べ出してから何ほども経たぬうちに、シンシアは、丸山公園の上空に不自然
なものを見つけた。その公園の真上に、黒い雲を見つけたからだ。それも、中途
半端な高度に有ったりする。
 (今日は確か晴天だったよな・・・)などと、考えていると突然その雲から稲妻が
放たれた。
 (間違いない!!あの三人はあそこに居る!!)そう思うや否や、無数の蝙蝠
を集結させて実体化する。そして、携帯電話で神楽に連絡を取った。
 「神楽!!あの三人は丸山公園に居る!!」
そう大声でまくし立てると、一方的に電話を切る。そして今度はもう1つの形態、
狼の姿になる。大きく真っ黒な狼の姿に、そしてシンシは全力で丸山公園に走っ
て行った。

 そのころ、三人はいじんの張った結界の外に出ようと、戦いながらジリジリと移
動を続けていた。
 ハクとリンはいじんの波状攻撃によって、傷だらけになっていた。リンもハクと
同じように、本来の姿になって戦っていた。この方が身体能力が増すからだ。し
かし、その体は傷だらけで白い毛皮を血で赤く染まってまだら模様になってい
る。千尋を庇いながらの戦いである為、思うように動けないのだ。相手もその事
を知っているのか、仕切りに千尋を狙って攻撃してくる。それでも、何とか三体
は、倒す事は出来た。
 「あーもう、しつこいと言ったらありゃしねぇな!!」
切りかかってきたいじんに火の玉を放って追い払ったリンは、ぼやいた。
 『あの、稲妻、誰か気付いてくれただろうか?』
 「気付いてくれるさ!!」
リンは、半ばヤケクソ気味に叫んだ。
 千尋は、自分の不甲斐なさに激怒し絶望していた。神楽に言われた「貴方には
覚悟が無い」と言う言葉が頭に浮かぶ。そう、覚悟が無いから御神刀をしろがね
に置いて来てしまったりするのだ。
 「もう少しで、結界の外だ!!」
リンが叫んだ。が、其処に隙が出来た。いじんはその隙を見逃さずに三体が同
時に斬りかかる。リンは咄嗟に避けようとしたが、避けきれず円月刀がリンの体
を切り裂いた。ギャッ!!と、悲鳴があがると同時にリンは、地面に倒れこむ。そ
して、その体からは勢い良く鮮血が流れ出て、地面に血だまりを作った。
 『リン!!』
それを見たハクが叫ぶ。リンに気を取られたハクをいじんが見逃すはずも無く、
同時に飛びかかった。刃物が肉を切り刻む耳障りな音が数回鳴り響くと、ハクは
大量の血液を迸らせながらぐったりと地面に横たわった。
 「あ・・・ああ・・・」
千尋は、あまりの恐怖に目の前で起こっている事が理解できなかった。体が硬
直して固まり動く事も声を上げる事すら出来なくなっていた。
 「ガ・・・ウ・・・ウ・・・」
ハクが龍の姿のまま千尋に逃げろとと言ってはいたが、彼は龍の姿になると人
の言葉を喋れ無くなってしまうので、呻き声にしか千尋には聞こえない。
 いじんらは、ハクとリンに止めを刺べく近づいていたが、突然ピタリと止まると、
何やら邪悪な相談をし始めた。
 (コノママコイツラ二、トドメヲサスノハオモシロクナイネ・・・)
 (コイツライツデモコロセル。ソレヨリモコノムスメヲコロスネ・・・)
 (コイツラノメノマエデナブリコロスネ・・・)
そんな邪悪な相談をしていたいじんの一人がハクとリンを指差して言った。
 (オノレノムリョクサニゼツボウシナガラユックリトシンデユクネ!!)
 「「!!」」
その言葉を聞いた二人は立ち上がろうと、懸命にもがくが出血が酷くなるだけで
動く事が出来なかった。
 一人のいじんがクスクスと冷酷に笑いながら、千尋に円月刀を振り落とす。千
尋は、迫り来る円月刀を見詰めながら、自分はここで死ぬんだ。恐怖で麻痺した
頭でぼんやりと考えていた。その時、聞き覚えのある声が、彼女を現実世界に引
き戻した。
 「伏せるんだ!!」
 その声と共に、人よりも大きな真っ黒な狼が、千尋に斬かかっていたいじんに、
体当たりした。





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