第四話

 「「「異人?」」」
 神楽が千尋に会って、説得してから数日後のしろがねの店内で、ハクとリンそ
して、千尋は神楽にそう聞き返した。
 「字が違う。漢字の異人じゃなくて、平仮名でいじんだ」
 「発音は同じだろ」と、リン。
・・・・・・チョット待て、何で自分たちが思い浮かべた字を当てるんだ?まさかこの
人読心術が出来るんじゃないだろな。リンとハクは、神楽に疑いの目を向ける。
 「チョット、神楽。その、いじんが如何したんだって?」
元々色白なシンシアが更に顔を白くして、神楽に尋ねる。声がヤヤ震えている。
 「バロウズと、他のネットワークから情報で、ここ京都にいじん、が出たらしいと言
ってきた。それで、警戒を強めてくれとご要望だよ。」
 そう・・・と、呟く様に言った。いきなり暗くなる店内。その様子を感じ取ったハク
が、「いじんとは?」と尋ねる。
 「邪悪と言うか・・・とにかく悪い妖怪の代表で、生まれた経緯は、人間の外国
人に対する誤解や偏見、そう言った類の悪いイメージが集まって生まれた妖怪
で、姿は黒いマントをまとって円月刀を持った陰のような姿をしているのよ。そ
いつらは大体、10人から20人ぐらいの集団で行動して、若い女性をさらっては嬲
り殺しにして楽しむ鬼畜な連中さ。確か五・六年前に東京に出没していたが、東
京にあるネットワークが、総出で退治した筈なんだけど・・・それが如何して、京
都に?しかも何でこんな短時間に復活するんだろう?あ、言い忘れてたけど私
はこの東京の事件に係ったんだよね。」
 大変だったとシンシア、このいじんの能力は、影に変身したり結界を張って、姿
を隠し、妖力探知能力を無力化してしまうとのこと。その為、守崎摩耶と言う人間
の少女が囮となってくれたおかげで、何とか退治できたそうだ。ちなみにこの事
件に係ったのは、しろがねでは彼女一人だけである。
 「あのー外国人対する偏見て・・・」
 少し言いにくいんだけどと、前置きしてから神楽が話し出した。
 「都市伝説と言った奴を見てみると、明らかに外国人に偏見を持っているといっ
たような噂話は沢山ある。たとえば、都市部周辺で外国人の強姦魔が出没して、
日本人女性を襲ってるとか、若い女性を誘拐して外国に売り飛ばしているとか、
そう言った噂話があるんだよね。特に食べ物に対する偏見はもはや電波が入っ
ているとしか思えないほど酷い」
 その話しを聞いた千尋は複雑な心境になった。自分も外国人に偏見を持って
いないといったら嘘になってしまうからだ。
 人ならざる存在「妖怪」は、人の想いから生まれる。その存在を強く信じればそ
れは生を受ける。だが、妖怪がどんなにその存在を信じても、妖怪の想いから、
妖怪が生まれる事は無い。あくまでも人間の想いからでしか生まれない。つまり
そのいじんと言った奴も人間が生み出したのだ。だとしたら、自分もそのいじん
と言った妖怪の誕生にもかかわってしまっているのだろうか?
 「まぁ、今の所、警戒を強めてくれとしか言って来てないから大丈夫だろう。そ
れよりも折角の休日だ。学業や仕事でなかなか会えないんだろ?三人さん。余
程の緊急の事が無い限り電話を駆けるつもりは無いが、何があるか解らんので
携帯の電源は切らない様にな」
 武男が、千尋とハク、リンにそう言った。ハイ、行って来ますと言って三人は京
都市内へ出かけていった。

 その日の夕方、京都の八坂神社の裏手にある丸山公園に三人はいた。千尋
は久しぶりに、ハクとリンと一緒に遊べたせいか、御機嫌である。どうやら、ぎこ
ちなさもとれた様だ。やはり、実際に会って話しをしたり、色々と遊んだりした方
が良いみたいである。千尋もあんな事で苛立っていたのか、今となっては馬鹿馬
鹿しくなってしまった。
 「あーあ、もう夕がたかよ。休みの日は時間がたつのが速いねー、仕事してる
ときは、なかなか時間が経たないくせによー」
 リンは、ぼやきながら自販機でかった缶ジュース、ウーロン茶をハクと千尋に
投げ渡す。そんな、リンをクスクスと笑いながらなだめる千尋。
 「リンさん、私のお父さんと同じこと言ってるーなんだかオヤジくさいよ。」
 ほっとけとリン。「千尋は、明日は学校だろ。ハク様は、明日は如何するんだ
い。大学てとこに行くのか?」
 「いや、明日はアルバイトと言う奴にいかねばならん。私はそなたと違って貧乏
なのでな。」
 ハクは、取り様によってはいやみとも取れる口調でリンに言う。
 「大変だねー貧乏人は。あ、何なら金、貸してやっても良いぞ。といちで・・・」
 断ると、即答で応えるハク。
 実は、リンは金持ちだったりする。油屋に居たときの貯金や九尾の白弧、綾香
が持たせてくれた金の金額は相当なものであり、むこう十年は遊んで暮らせる
ほどの金額だったりする。しかし、其処は真面目なリン。自分の生活費は働いて
捻出して、殆ど手を付けていない。 「働かざるもの食うべからず」それがリンの
理念。
 「せっかく親切心で言ってやってんのにつれないねー」
 「といちの何処が親切心だ!!」
何やら揉め出す二人。決してなかが悪い訳ではない。どちらかと言うと喧嘩友達
と言った所か。
 まあまあと、なだめる千尋。千尋もこの事は、毎度の事なのでもう慣れてしまっ
ていた。
 「ハクにリンさん辞めてよね。他の人達が見て・・・え?」
千尋は自分の言った言葉に違和感を感じて周りを見渡す。人っ子1人いない。
確かに、ここは繁華街から離れた所にある公園だが、誰も居ない言うのは異常
だ。公園内にある店にも人がおらず、店を閉めている店まである。日曜日の夕
方だと言うのに!!
 「この感じ・・・人払いの結界か!!」
千尋の言葉に妖力探知を行ったハクが叫んだ。





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