第三話

 「ハク様よ。不機嫌に成られても困るんだよ。それよりオレは、仕事中の時は緊
急の要件があるとき意外は、出来る限り電話を駆けないでくれとオレは言っとい
たはずだけど・・・」
 『先ほど千尋から電話があって、つまらない事で拗ねてごめんなさいと、謝って
きたのだが・・・リンは千尋からかかって来たか?』
ハクは、リンの抗議を無視して話す。千尋―この単語が出た途端リンの様子が、
がらりと変わった。
 「本当か?」
 『私が嘘を言ってるとでも?』
 「いや、すまねぇ。いや実はな。オレが仕事に行く前に千尋から電話が繋って
来たんだ。つい言いそびれたけど。あ・・・ハク、気にするなよ。たまたま順番が、
逆に成っただけだよ」
 『そんな事はどうでも良い。私が聞きたいのは、千尋の謝罪の言葉に何を感じ
たか―この事なんだ』
 リンは暫しの沈黙の後、応えた。
 「話し方が少しぎこちなかった。千尋はオレやハクの気持ちには
気付いてくれ
た様だけど、納得はしてくれてないな。多分」
 『リンもそう思うか・・・』
 「ああ、でも何時か解ってくれるよ。オレやハクの気持ちにさ」
 『そうだな・・・リン、仕事中に電話して済まなかったな・・・』
ハクがそう言った後、電話は切れた。リンは切れた携帯電話を見詰めたまま一
人ごちる。
 「オレが1番心配なのは、お前だよ。ハク・・・」
自分はいいのだ。自分は九尾の白弧、綾香様の命によってこちらの世界に来る
事になったのだが、ハク。こいつは違う。ハクは千尋に会いたい一身で様々な苦
難を乗り越えてきたのだ。もし、千尋に拒絶されたら、ここの世界に来た意味を
失ってしまう。
溜息を付くと携帯電話を仕舞い込むリン。と、其処へ同僚の一人、鞍馬鳥次郎と
言う男がやって来た。実はこの男も妖怪で、正体は鴉天狗だ。
 「リン、今の電話は関係者の一人からか?」
 ああ。と力無く応えるリン。関係者―この場合は妖怪仲間の事を指す。
 「小耳に挟んだんだが、何でもネットワークしろがねに人間の娘が入ったとか。
たしか、荻野千尋とか言う。その事か?」
 「うん。その人間の娘の事でちょっともめててね。実は・・・」リンは、今までの事
を手短に話す。
 「なるほどね・・・でも何時か理解してくれるさ。ここの店長さんのようにな」
そうだよな。と応えるリン。
 実は、この店の店長は、この二人が人間ではない事を知っている。(他の従業
員は知らない。)知っていて雇ってくれているのだ。確かに昔、妖怪がらみの事
件に巻き込まれ、命を落としそうになった所をネットワークに助けられた事があ
って恩義を感じているらしいるのだが、それでもこう言った人はごく稀だ。
 しかも、二人が妖怪だからと言って給料を不当に安くする事は無い。それどこ
ろか良く働いてくれると言う事で、給料に色を付けてくれるぐらいだ。
 「サッ、仕事に戻ろうぜ。あまり長く休憩してるとどやされるよ」
リンは鞍馬にそう言うと店内に戻っていった。

 それから数日間、リンはハクに千尋の事で頻繁に連絡を取り合った。ハクと千
尋は屈託無く、取り止めの無いお喋りを楽しんでいるようだが、やはりどこかぎ
こちないらしい。誰かが、「妖怪と人間は会い入れぬものよ」と言ってはいたが、
そんな事は絶対に無い。特に千尋とハクあの二人だけは絶対に無い。ああ、そ
うさそんな事は絶対にあってたまるか!!





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