第二話

 次の日、千尋は何時も、より時間が長く感じられた授業を終えて、家路へと急
ぐベく、教科書やノートを鞄に詰め込むと、クラスメートへの挨拶もそこそこに、教
室を後にした。何時もだったら友達と帰るのだが、ここ数日間は一人でトボトボと
帰っていた。
 「何か最近、荻野さんやたらと暗くない?一緒に帰ろうと誘っても断ってるし」
クラスメートが、ヒソヒソと話し合う。あの日なんじゃない?とか思いっきり的外れ
見たいな事を言ってたりする。
 千尋が、校門を出たところ一台のRV車が目にとまった。中古のパジェロだ。そ
のパジェロから神楽が降りて来て手招きをする。千尋は無視する訳にもいかず、
溜息を付くと神楽の方へ向かって行った。

 神楽は千尋を乗せると車を走らせる。千尋は助手席に座ってはいたが、自分
の手元を見たまま終始無言、気まずい空気が車内を支配する。
 「千尋、気持ちは解るけどもうそろそろ許してやったらどうだ?皆、悪気があっ
た訳じゃぁないのだから。」
神楽は、ストレートに切り出した。
 「悪気が無かった事は解っているのです。でも、何故、私に一言も言わなかっ
たのか、その事ばかりが気になってしまって・・・」
 「気持ちは解るけど、皆の気持ちも解ってやってくれないか?皆は、十五歳の
人間の少女を血生臭い戦いの場へと引き込むのは、気が進まなかったんだよ。
特にハクとリンはな。だから何も言わずに事を起こしたのさ」
 「でも・・・私は、ネットワーク「しろがね」の正式なメンバーなんですよ。」
千尋は手元を見たままやや強い口調で言った。
 「ああ、確かに正式なメンバーとなった。私があの言霊を言って貴方を正式な
メンバーとしてむかえた。しかし、貴方は本当の意味での覚悟が出来ていない」
 覚悟が出来ていない?千尋は神楽の顔を見やって言った。
 「うん、出来ていない。千尋、貴方は妖怪との戦いにどのようなイメージを持っ
ている?せいぜい、漫画のゲゲゲの鬼太郎ぐらいのイメージしか持っていないん
じゃないのか?悪い妖怪を正義の味方の妖怪がやっつけると言った奴の」
 千尋は言葉に詰まった。そんな事は考えてはいなかったが、完全に否定は出
来ない。神楽はそんな千尋の様子を見て更に続けた。
 「言っておくが、そのようなイメージは捨てておいた方がいい」
神楽は、一度言葉を切ってから更に続けた。
 「確かに妖怪の中には悪い奴らがいる。卑劣な奴、卑怯な奴、相手が精神的、
肉体的な苦痛にのた打ち回るのを見るのが好きな奴ら・・・そう言った奴らは倒さ
なければならない。だがそれは突き詰めて行けば殺し合いだ。殺戮なんだよ・・・
傷つけば痛いし血も出る。ダメージを受けた相手が苦痛に悲鳴を上げてのた打
ち回る・・・それが戦いの現実なんだよ。私らのやっている事は殺戮と同じなのさ。
だから皆は、特にハクとリンが千尋に連絡するのに気が進まなかったのさ。」
 千尋は言葉が出なくなっていた。そして自分が皆に取った態度に関しても後悔
し出していた。戦う言う事は相手を傷つけ殺す事。何故こんな単純な事に気が付
かなかったのか・・・
 「神楽さん・・・あの・・・私、如何すれば良いんでしょうか?皆の気持ちも考えず
に皆に凄く酷い事をしてしまって・・・」
神楽は、チラリと千尋の顔を見る。あとひと押しで泣き出しそうな感じだ。
 「悪い事をしたときは如何したらいいのか・・・解るね?」
神楽は千尋が泣き出さない様に、言葉を選んで喋る。
 ハイ。と頷く千尋。神楽はニッコリと微笑んでから更に続けた。
 「千尋、何も戦いだけが役割と限りないんだよ。私達の妖怪の中には殆ど攻撃
力が無い奴って居るんだよ。そういう奴らは、情報収集の為に聞き込みをしたり
奇妙な噂やヤバそうな噂を集めたりしてるんだよね。だからさ、千尋も出きるは
いん出いいから、そう言った事で協力してくれれば良いんだよ。結構重要だと思
うよ。学校内や学生の間で、はやっている噂なんて私の耳には、なかなか入って
来ないんだしさ。」
 「解りました。取り合えず皆に謝ります。それと、私の出来るはいんで皆さんに
協力します。」
 ああ、頼むよと言って車の運転をに専念し出す神楽。

 程なくして、千尋の家に着くと千尋は、送ってくれた事を神楽に礼をすると車か
ら降りて家の中に入っていった。神楽は、そんな千尋を見送るとため息を付く
 (アレは、解ってくれた様ではあるけれど、納得してくれたようで無い様だな。し
かたが無いな。時間が解決してくれるのを待つしかないか・・・)
神楽はそう考えて、再び溜息を付く。そして、自分の部屋に帰るべくアクセルを
踏みしめた。

 その日の夜、午後8時ごろ京都市内にある居酒屋チェーン店の支店の店内は
仕事帰りのサラリーマンやOL、大学生やら何やらでごった返し、客の話し声や笑
い声で喧しい事この上も無かった。その喧騒の中をリンは注文を受けたり、注文
された料理を運んだりと忙しそうに駆けずり回っていた。
 リンは、むこうの世界、油屋に居たせいもあるのかこの店では一人で二・三人
分の仕事をこなしてしまう。おかげで店長や同僚からも一目置かれる存在になっ
ていた。もっとも、本人は当たり前の事をやっていると思っているので自覚は無
いが。
 [以上でいいですね?」
オーダーの確認をしたリンは、厨房の方にむかう。と、突然携帯が鳴った。
 「稲垣さん。仕事中は、携帯の電源を切っとくようにと店長言われてなかっ
た?」
 同僚の一人がリンに注意する。わりぃわりぃと言って慌てて店の裏に走りこむ
リン。そして、携帯に出た。
 「ハイ、稲垣ですが・・・なんだハクか・・・」
リンの言葉に、不機嫌な声が返ってくる。
 「悪かったな。私で・・・」





 

    もどる                            次へ