第一話

 携帯のチャクメロがなって、持ち主に早く電話に出ろと急かし立てた。と、程なく
やや肉付きの薄い手が携帯を取った。
 「ハイ。荻野ですが・・・」
 『あ・・・あの・・・千尋、私だ。ハクだ・・・』
受話器の向こうから、ハクが言いにくそうに千尋に話しかけた。彼にしては珍し
い。
 『千尋・・・この間の事は――』
ピッと音がしたかと思うと突然会話が途切れた。千尋が、電話を切ってしまった
からだ。そして、千尋は携帯を自分の部屋の机の上に置くと、ベットの上に仰向
けに大の字になった。
 「みんなの馬鹿・・・」
千尋は、不機嫌な顔で溜息交じりに呟いた。

 一方、妖怪達の溜まり場居酒屋「しろがね」の店の中で、千尋に電話をかけて
いたハクは、力無くガックリとうなだれると、大きな溜息をついた。その様子を見
ていた「しろがね」のメンバー全員がこれまた大きな溜息を付く。
 「ハクでも駄目だったか・・・」
リンがボソボソと呟く様に言った。その声を聞いて作助が力無く応える。
 「千尋ちゃん。相当怒ってる様ですね・・・」
 「やはり何も言わずに、事を解決したのは不味かったか・・・」
ハアーと溜息を再び付いてから武男が言った。その様子を我関せずと言った感
じで、ノート型パソコンの液晶画面を見つめていた神楽は、顔を上げて言った。
 「千尋に無断で事を解決してしまうからこう言う事になったんだ。この頃の人間
の子供は精神的に不安定になってくるんだよね。たしか―思春期とか言ったか・
・・千尋は多分、自分の存在を皆に否定されたと思い込んでるんだよ。この年頃
の人間の子は、難しいからねー」
神楽の台詞に、更に落ち込む一同。

 事起こりは、約一週間前。妖怪化したワンボックスカーを倒したのだか、その時
千尋に何一つ言わないで行動を起こしてしまったからだ。千尋は自分の父親が
襲われ怪我をしたのだから、自分にも関係がある。戦うときは、自分も呼んで欲
しいと、言っていたのだ。自分は、妖怪と戦う力を得たのだし、ネットワーク「しろ
がね」正式なメンバーとなったのだから。
 しかし、「しろがね」のメンバーは、千尋を戦いに参加させる事に気が進まなか
ったし、特にハクは千尋を戦いに参加させることに強く反対した。作戦が、夜中だ
からだけでなく、千尋を血生臭い世界に、引き込むのを何よりも嫌がった。だか
ら、千尋に黙って事を起こしたのだが・・・
 その事を「しろがね」で知った千尋は、怒鳴ったり泣いたりこそしなかったが、酷
く不機嫌な顔で、無言のまま店を出ていった。
 その事を取材から帰ってきた(建前上はそうなっている)神楽は、その事を知る
と直ぐに千尋に謝罪の電話をかけるように促した。で、ここ何日間か謝罪の電話
をかけ続けているのだが、途中で電話を切られてしまうのであった。

 如何したものかと考え込む一同。実際に会って謝るべきなんだろうけど、会っ
てくれなければそれまでだし、面と向かってはなお謝りずらい。ハァーと又しても
溜息をつく。ハクなんぞにいたっては、落ち込みすぎて、心なしか床にめり込ん
でいるように見える。
 「しょうがないなぁー、私が一肌脱ぐよ。このままで良い分けないしな」
神楽は、落ち込む一同を見かねていった。





 

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